FPのひとりごと

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  M君へ


   ポンタだよーー


   元気してた??


   って ゼッタイ元気だよね!


   ポンタも元気だよーー


   そういえば 授業の方 間に合ったの? だいじょうぶだよね


   あれから・・ っていうのもなんかへんなんだけど


   新宿のデートから もうひと月くらいなるんだねえ


   M君 まさかアタシのこと忘れてないよね!


   いくらなんでも それはないか・・

   
   アタシはねえ ずっとあのときのままだよ あのときの


   時間がたったら 感触も薄れるかと思っていたのに


   全然そんなことはなくて 逆に想いが募ってるよ


   M君の温もり 今もちゃんとアタシの中に残ってるよ


   でも アタシ めんどくさい女じゃないから 心配しないで


   M君を困らせたりしないから 安心して


   たった一日の 一回きりのデートだったけど


   アタシ一生忘れない どんなことがあっても忘れない




   
   M君にとって アタシがタイプじゃないことはわかってたの


   ライブハウスで出会った時から それはわかってた


   でも アタシにとってM君は もろタイプ!


   実は アタシから男の子に仕掛けたのは初めてだったの


   それなのに うすーいリアクション・・


   デートに誘ったのに デートだと思っていなかったでしょ


   なんだかあれで燃えちゃったんだよ アタシ


   まあ アタシに声をかけたのが運の尽きだと思ってね


   アタシね あの日のことを今でもすべて覚えているの


   映画のシーンみたいな感じで 全部覚えているの


   M君は風だったの 暖かくて優しい春風(いいすぎかな)


   M君 アタシのプライベートを一切聞かなかったよね


   興味がなかったのもあるんだろうけど・・(失礼だぞ!)


   立ち入ってこない優しさを感じていたよ


   立ち入ってはこないんだけど 包んでくれたみたいな


   あれが あの日のアタシには一番うれしかった


   すべてを忘れて アタシを解放することができたの


   M君の前では ただの普通の一人の女の子になれた 


   ずーっとそんなことがなかったから 思いっきりはじけちゃった





   M君に これだけは話しておかなきゃね


   M君に『燃え尽きた矢吹ジョー』って言われたけど


   あの時は ホントにそんな感じを引きずっていたの


   仕事が急に忙しくなって なにがなんだかわからない状態の中で


   最愛の母が急病で亡くなって


   信じていた人たちに裏切られて


   愛する人が去っていった


   アタシにとっては もうこれ以上ないくらいの人生のどん底だったの


   矢吹ジョーは強いけど アタシは弱いから(ホントだよ)


   自分で自分を貝のように閉じちゃった


   それしか耐える方法がなかったんだと思う


   そんなアタシを見て まわりの人達はハレ物扱い


   逆の立場なら アタシもそうするからしょうがないんだけど


   どこへ行っても あの日のライブハウスみたいな感じ


   気が付けば ぽつんと一人・・


   もういいかげん前を向かなきゃ ってわかってんのに

   
   踏み出せない 抜け出せない だめなアタシ


   そんなとき いきなり 『よーっ!』 って


   びっくりして声の主を探したら もういないし


   もうこっちは『なによー!(怒)』って感じ


   でも あの瞬間になにかがはじけたの アタシの中で


   憑き物が落ちたって言えばいいのかもしれないけど


   で 声の主が いかにも貧乏学生の(失礼!)M君だったってわけ


   誤解されると困るんだけど アタシってけっこうモテるんだよ


   M君は絶対信じないと思うけどね


   そんなアタシ(どんなアタシだ?)がナンパしてんのに


   それをナンパとも思わないで かわしにかかるなんて・・


   アタシのハートに火が点いたのは言うまでもないでしょ!


   

   そういえば アタシのお仕事の話をしてないよね


   知らないままの方がいいのかなー とも思うんだけど


   言わないのも なんかフェアーじゃないような気もするし・・

   
   アタシに関心の薄いM君のことだから


   アタシが言わなきゃ一生気づいてくれそうもないし


   思い切ってヒントをあげちゃおう!


   アタシのごく最近のあだ名は『レッド』ちゃん


   そして アタシがちょっと有名になったのは『銀座』方面・・


   これでピンときた? (アレ アタシなんだよ)


   きてないか・・ その方がM君っぽくていいのかもしれないね


   おかげさまで 仕事もノリノリで頑張ってるよ


   友達も誰も変な気を使わなくなったし


   みんなみんなM君のおかげ  ありがとう


   ほんとうは どうしてももう一度会いたいんだけど


   会ったら アタシの心の防波堤が決壊してしまうと思うの


   そしたら M君に迷惑をかけてしまうと思うし


   ポンタ史上最高の片思いとして大事にしまっておきます


   あんまり深酒やケンカなんかしちゃダメだよ


   自分を大事にしてね


   思いは尽きないけど ここでペンを置きます


   試験と単位と就職 がんばってね  


   じゃあ さよなら!




   追伸  返事は絶対に書かないでね    ポンタ




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
会計をすましているポンタを置いて 一足先に店から出たM



新宿は あっという間に放射冷却で冷え切っていた




その寒さを感じた瞬間に 新宿の喧噪にまた包まれた M




何気なく空を眺めると そこには街に不釣り合いな星空が広がっていた




空が澄んでいるので 珍しく星の瞬きまでよく見えた




原色のネオンの瞬きが 星の瞬きと妙に同調していた




 『おまたせー』 




会計をすませたポンタが 遅れて店から出てきた




 『ごちそうさん』 と振り返ったMに 



 『どういたしまして』 と言いながら ぴょこんとジャンプしたポンタ



見事にMのジャケットの懐に すっぽり収まった




不意を突かれてうろたるMに




 『恥をかかせる気』 とポンタがMを見上げながら言った




その表情には優しさが溢れていた




その優しさに隠されたものをMは何となく感じることができていた




Mが両手でそっとポンタを抱きしめた



ポンタも両手をMに回した



その時 新宿の喧騒が跡形もなく消えたのだった  
Mがトイレに立った時だった



店員がポンタを呼びにきた



レジ前で 中年の男がポンタを待っていた



男は うつむくポンタに向かって一方的に何事かを告げて帰っていった



Mより先に席に戻ったポンタ



なにげに 窓の外の新宿の雑踏を眺めていた



ちょっと前までのテンションとは明らかにちがっていたが



Mが戻ってくると 一瞬天井を見上げてから笑顔をつくり



 『すみませーん ビール2本!!』


 『オレ そろそろ水割りかなんか・・』


 『いいの! アタシも飲むんだから!』

 
 『ハイ!』



ポンタの勢いに素直に従うほろ酔いのMだった



そして 何度目かの乾杯の後



 『Mクン アタシもう帰んなきゃ・・』



唐突に そして申し訳なさそうにポンタが切り出した



 『おっ もうそんな時間か』



と切り返したMだったが その表情には明らかに狼狽が見えていた



Mには“もうちょっと”という思いが芽生えていた



もうちょっと・・ それは時間であり ポンタへの距離感でもあった



 『アタシね 明日から仕事に復帰するの


  いろいろあって 仕事に行けなかったんだけど


  Mクンに会って いっぱい元気もらって 楽しい時間をすごして


  そしたら やっといろいろふっ切れて やる気も戻ってきたの


  ほんとは Mクンと飲み明かしたいんだけど


  今でも 正直 気持ちは半々なんだけど


  いつまでもMクンに 迷惑かけてらんないし・・』
  


そう言って グラスのビールを一気に飲み干した後



 『しょうがないから 解放してやるか 片思いのMを!』



満面の笑みで ポンタはMにそう言い放ったのだった
 
 『Mクン!』


 『んっ?』


 『アタシがそのディスコにいたら アタシを選んだ?』


 『うーーーーん』



絶句したMを目だけで睨んだ後 頭を抱えたMに微笑みかけるポンタ



 『選ばないんでしょ!』


 『 ・・・・ 』


 『やっぱり』


 『今なら選ぶよ』


 『って それ答えになってないんだけど

  でも どうして今なら選んでくれるの?』


 『あんまり責めるなよ 弱いんだ こういうの』


 『責めてんじゃないの 理由が聞きたいだけなの』


 『理由ねえ・・  おごってくれたから』


 『もう バカ!』


 『冗談 冗談  そうだなあ・・

  一途で真っ直ぐだよね ポンタは

  なにかいろいろと抱えてるんだろうけど

  でも 一生懸命生きようとしてるし 明るいし

  応援してあげたくはなるね』


 『なんか微妙だなあ・・ 

  褒めてもらってありがたいんだけど

  ポンタの女としての魅力はどうなんだよー』


 『なんか ちょっと 女っぽく見えてきた かな・・』


 『まじ?』


 『ちょっと酔いが回ってきたか』


 『もーーーう!』



会話は弾み 二人の距離はどんどん近づいていたが


それは別れの時間も近づいているということだった  
夜の帳が降りきった新宿 宵の口



テーブルには 空いたビールの中ビンが5本



ほとんどはMが飲み ポンタは注ぎ役 聞き役に徹していた




 『オレさあ・・』


 『うん』


 『こないだね すごいショックなことがあったんだ』


 『どんな?』


 『長くなるけど いい?』


 『全然OK!』


 『大学入った時・・ 元々入りたくて入ったんじゃないんだけど

  あまりにもなんにもなくて 友達もできなくて落ち込んだの・・』


 『って Mクンが?』


 『そう』『挫折しちゃったんだね たぶん・・』


 『ザセツ?? へーーー・・』


 『で その反動で めちゃくちゃをしてきたの この一年くらい』


 『どういうめちゃくちゃ?』


 『ケンカしたり 泥酔したり ナンパしたり・・』


 『ケンカ・・ ナンパ・・ 人って見た目じゃわかんないもんだねえ』


 『バイト先で 気の合う同世代の友達をいっぱいつくったんだけど

  そいつらと夜な夜なディスコに出没してたの 連れだって』


 『そこでナンパしてたんでしょ』


 『うん あそこで踊ってばかりいる連中ってアホだよね』


 『ナンパの成功率は?』


 『うーーん 勝ち越しはしてたね』


 『やるじゃん!』


 『まあね』


 『で その晩も意気揚々と 4人で繰り出したんだけど

  たまたま友達の友達が帰省してて そいつも一緒だったの

  別にいいけど って感じで 5人でスタンバイしたのね

  そこにおあつらえ向きの女子4人組が来店したんで

  いつものようにオレがナシをつけて合流!ってわけ』


 『ナンパ大成功じゃん』


 『うん・・ でも なんか違うんだよ いつもと なんか・・

  オレは狙ってた隣の子に いつものようにアプローチしたんだけど

  全然反応がないんだよ 全然 なんか会話がすべってんの

  まわりを見たら みんなおんなじような雰囲気

  で 女の子たちの視線の先を見たら同じ男をみんな見てんの

  あの おまけで連れてきてやった友達の友達を!

  しかも みんなとろーっとした表情になってやんの

  もう こっちは えーーっ! てなもんだよ

  そいつが なんかシグナルでもだしてりゃ別だけど

  そいつ 女の子たちの視線を完璧にシカトして男と喋ってる

  しかも まったく無理をしてるような感じじゃない

  いやーー ショックだったね あれは

  己の男としてのポジションをいやというほど思い知らされたね』


 『“そいつ” そんなにイイ男だったの?』


 『郷ひろみを ちょっとウスくしたような感じ』


 『で 女の視線に無関心なんでしょ そりゃモテるわ』


 『だろ 冷静に考えりゃあ当たり前の話なんだけど

  現実に そんだけ差別されちゃうと ちょっと立ち上がれなかったね』


 『“そいつ”新宿二丁目方面の住人なんじゃない?』


 『かもね 美容師だって言うし・・

  オレね それで自信を無くして それからナンパしてないの・・

  二度目の挫折だね』


 『自信なくす必要はないよ Mクン イイ男だよ 全然』


 『ありがとう・・』


 『私のいるギョウカイには“そいつ”みたいなのがうじゃうじゃだよ

  でも半分はナルちゃんで 半分は二丁目の住人

  アタシ全然興味がないよ あんな連中

  オトコは見てくれじゃないって!』


 『それって オレの見てくれのことを遠回しに否定してない?』


 『してない してない 全然してない』


 『そうかなあ・・』  『んっ ポンタのギョウカイって?』


 『えっ アタシそんなこと言った? 気のせい 気のせい

  そんなことより ここにいる男の方が問題だよ!

  誰かがずーっと熱視線を出してるのに シカトしてるし・・』


 『 ・・・ 』



酔いが回ってきて理解力が乏しくなってきたM



ポンタがうまく話をすり替えたことなど気づくはずもなかった
 『いらっしゃいませー!』



従業員の大きな声に迎えられたMとポンタ


ウィークデーの『北の家族』は満席に近い状態だったが


窓際の小上がりだけが ぽつんと空いていた


迎えあわせに座った二人に 従業員がオーダーを取りにやってきた



 『なに飲む?』 とM


 『Mクンとおんなじもの』 とポンタ


 『じゃあビール! と枝豆とヤッコと焼き鳥 塩で』『いい?』 とM


 『いいけどー あたしがおごるのに 勝手に決めちゃってー』 とポンタ


口を尖らせてはいるが 顔は笑っている


 『ゴメン いつものクセが出ちゃった』


 『冗談 冗談 そのペースでどんどんいっちゃって』



ビールが運ばれてきて お互いにグラスに注ぎ合った



 『Mクン 乾杯の前に これだけはアタシに言わせて!』


 『今日は ホントにありがとう!』


両手でグラスを持ったポンタが 真正面のMをじっと見つめた


 『なんだよ てれるじゃないかよ』


 『それに せっかくの冷たいビールが温くなっちゃうし・・』


 『いいの!』


 『今日は ホントにありがとう!』


 『アタシ 今日のこと 一生忘れない ありがとう・・』


 『まあ その こっちこそ・・』


 『いいのよ 無理しなくたって ちゃんとわかってるから』


 『いや 無理してるわけじゃなくって なんか・・・』


 『なんかってなんなの?』


 『うーーん なんか もやもやしてるような・・』


 『それってどんな気分なの? どこがもやもやなの?』


 『わからない でも なんかヘンな気分なんだよなあ・・』


 『うれしい もうそれだけで十分』


 『意味がわかんない』


 『いいの!』



そう言うと なにか言いたげなMを無視して 



 『カンパ〜イ!』 と勝手に宣言したポンタ



呆気にとられるMに 精一杯の笑顔で笑いかけた


その笑顔に どきっとして(『やばい』)と心の中で呟いたM


でも なにが“やばい”のかはわからなかった そのときは