車寄せから待合室に入ります。待合室の見所もいろいろありますが、私のイチオシはベンチの脚。羽前成田駅の脚は、何の変哲もない四角の板材。それに対して西大塚駅の脚は、厚板を見事な曲線を描きながら欠き込んでいます。果たしてベンチの脚の規格まで、発注の際に指示するものでしょうか。隠れた所に職人さんの「粋」を感じます。これには羽前成田駅も脱帽です。さてさて、うら若い女性がベンチに座る。斜めに流した美脚をベンチの美脚が支える。何とも色っぽい風景ですなぁ。
車寄せ 金具VS金具
車寄せ探検の最後は、ここに使われている錆びた金具。羽前成田駅のモノは方杖(ほうづえ)のような金具であり、西大塚駅のモノは屋根の上に取り付けられた雪止め金具である。地元の棟梁に聞くとそれぞれ「化粧持ち送り」、「トンボ」と呼んでいるとのこと。
成田駅の金具は同じようなモノがホーム側にも使われているが、それには中の輪(〇)はない。中に組み込まれた輪は、何のために作られたのであろうか。また成田駅の屋根は縦葺き(瓦棒葺)のため、横葺きである西大塚駅のような雪止め金具は設置されていない。なぜ、成田駅は縦葺きで、西大塚駅は横葺きなのであろうか。駅舎が配置された方角と雪の多少によるものであろうか。
100歳の木造駅舎にあって、全く違和感を感じない程に錆ついた二つの金具。この金具を選択し、工事をした職人はどんな人であったろう。モノには物語があるものだ、と思う。
車寄せ 方杖&梁の欠き込み
方杖(ほうづえ)とは、柱と梁(はり)などの横架材の補強のためにつけられる斜め材のことです。西大塚駅の方杖に対して、成田駅の大きさと意匠の違いがわかります。さらに梁の先端部分を見てください。成田駅の梁の先端は大きく欠き込みがありますが、西大塚駅の欠き込みは小さくてほとんど気づかない程です。この欠き込みの差異は、随所で確認することができ、両駅の基本的な違いのように思われます。
車寄せ 持ち送りVS漆喰アート
車寄せの駅名看板が掲げられている箇所では、両駅の特徴をとても良く見ることができます。成田駅では凝ったデザインの「持ち送り」を使用しています。それに対して西大塚駅では、持ち送りの形跡はなく漆喰(?)がアート風に塗りこめられています。漆喰風の壁が、いつ頃作られたものか不明ですが、思いついた方の芸術的・職人的センスに感動してしまいます。何でも鑑定団の中島誠之助風に言うと「いやぁ、両駅とも良い仕事してますね、ぜひお大事になすってください!」
車寄せ 切妻vs半切妻
建物の入り口部分の出っ張りを車寄せあるいはポーチと呼ぶそうですが、西大塚駅と羽前成田駅の車寄せの屋根型の違いに、何人の人が気づくでしょうか。写真のとおり、西大塚駅が切妻であるのに対して、成田駅は半切妻といわれる型式です。切妻が純和風に見えるのに対して、半切妻は何となくハイカラっぽく見えませんか。
1986年(昭和61年)9月に撮影された荒砥駅の写真を見ると、荒砥駅も半切妻となっています。可能性としては、成田駅から荒砥までは半切妻の型式で建てられたのではないかと思われます。西大塚駅が開業してから8年後に開業した成田駅。この8年間の建築意匠の変化を見ていきたいものです。