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第1話 帰郷(赤湯駅へ)

  • 第1話 帰郷(赤湯駅へ)

 東京駅の人混みをかき分けて23番線に上がる。ホームに並ぶ顔に何となく親しみを覚え、服装などにも故郷の香りを感じる。自分と同じように、初めての帰省であるような若い女性も何人か並んでいる。シルバー色(※)の列車に乗り込むと、車内ではすでに山形訛りの会話が飛び交う。啄木の歌ではないが、この大きな声の会話が、故郷への旅のプロローグのように思える。

 

 関東平野を過ぎ福島県内の丘陵地帯の上を走り抜け、一時間ほどすると福島駅に到着する。ここでつばさはやまびこ号と分かれる。つばさは、小さな車体を右に左にゆすりながら奥羽山脈を駆け上る。それはまるで何者かから解放された少年のようである。峠の最頂点を過ぎると、今度は置賜盆地の底を目指して疾走する。故郷に一刻も早く帰りたいという我が思いが乗り移ったようである。眼下に流れる沢に春は新緑、秋は紅葉のパノラマが、幾枚にもわたって車窓を駆けていくのである。この峠道での列車の喘ぎと揺れる鼓動に、旅立ちの時の思いが蘇る。

 

 車内放送が山形鉄道の待ち合わせ時間をアナウンスする。東京を出て2時間20分、列車は赤湯駅3番(※)ホームに到着した。階段を上り跨線橋を4番線に向かう。ローカル線の鉄道娘の看板が迎えてくれる。階段を降りるとフラワーの車両が暖機運転をしている。ホームにガガダン、ググダンという金属がこすれるような音が響いている。若い運転士がこちらを見て、軽く挨拶をしてくれた。私は、ラッピング列車に乗り込んだ。窓をあけて、故郷の風を胸いっぱい吸い込んだ。

 

 

【おらだの会】長井線の各駅を舞台にした物語やエッセーを連載したいと思い、突如として発車させてしまいました。ベルも聞かずに出発した妄想列車にお付き合いいただければ幸いです。

踊子草より雪がよい

  • 踊子草より雪がよい

 2月10日から11日にかけて関東地方に大雪警報が出された。長井でも久しぶりにまとまった雪が降り、雪かき作業に追われた。朝食後のひと時に、スノーダストが輝く中で眺める景色は、雪国に住む者に与えられた特権だなと思う。

 

 今から3年前の2020年(令和2年)は、ほとんど雪が降らない冬であった。広場には1月中旬まで踊子草が並んでいた。1月15日には新型コロナウィルスに日本人初の感染が確認され、翌2月にはダイヤモンドプリンセス号で多数の感染者が確認された。以来、今日まで長い憂鬱な日々が続いている。

 

 雪かき作業は一年ごとに辛くなるけれど、当たり前に雪が降り、当たり前の季節が巡ることを「有難い」と思う。やはり今の時期は、踊子草よりは雪がよい。

 

 

 3年前の駅前広場の様子はこちらから

 → 桜と踊り子草:おらだの会 (samidare.jp)

2023.02.11:orada3:コメント(0):[停車場風景]

雪灯り回廊祭りのこと

  • 雪灯り回廊祭りのこと

 2023年2月4日、長井市の市街地で第20回雪灯り回廊祭りが開催された。この祭りが初めて開催された2000年初頭はデフレ不況に見舞われ、失業率も高い状況が続いていた時期である。長井の町もその例外ではなかった。そんな時に「街を元気にすんべ」という若い人の発案で開催されたのが始まりである。

 

 おらだの会では発足後間もなくからイルミネーションを点灯させていたが、その後、駅前通りで雪灯り回廊祭りを実施していた。当時の宮崎会長が、吉川病院の患者さんを元気づけたいとの思いで、病院の職員と共に作業をやったこともある。宮崎会長の没後、平成29年2月からは実施せずに、その代わりに列車での参拝と新年会を行うようになった。

 

 任意の自主団体が存続していくことはそれだけで大変なものがある。事業ができなくなることは残念なことではあるが、時代の変化の中で事業が変更されることも有りうることである。ただ、「地域を元気にすんべ」「楽しくやんべ」という気持ちだけは持ち続けたいものだ。

 

 

 2013年の雪灯りの様子はこちらからどうぞ

 → ’13 成田駅前雪灯り回廊祭り①:山形鉄道 おらだの会 (samidare.jp)

2023.02.09:orada3:コメント(0):[駅茶こぼれ話]

童心に帰って

  • 童心に帰って

 待合室に絵画が飾られている。題名は「フラワー長井線でたびの出発だ!」。令和4年度山形県子供絵画展で入賞した致芳小学校3年生の作品である。致芳小学校3年生は、今年ふるさと学習に取り組み、羽前成田駅にも来てくれた学年である。そんな生徒の一人が、長井線を描いて入選したことをとてもうれしく思う。

 

 作品には、友達とフラワー号に乗って行く時の心躍る様子が画面いっぱいに広がっている。そういえば昨年の秋、子供たちが連れ立って長井線に乗るのを見る機会が何回かあった。その時の子供たちのはしゃいだ様子は、まったくこの絵そのものだった。たとえ2つ先の長井駅までの小旅行であっても、子供たちの胸に広がるワクワク感や沸き起こる冒険心は旅の醍醐味なのであろう。人口減少による厳しい経営状況が伝えられる中で、この絵は一縷の希望にも思える。

 

 全線開通100周年を前にして地元新聞の「話題の十字路(2月2日付け)」では、「100周年は祝賀だけでなく長井線に向かうきっかけにしなければならない。・・・『試しに乗ってみるか』。そんな思いから『私たちの長井線』としての意識が広がって欲しい。」と呼び掛けている。この絵は、私たち大人が忘れかけていた旅への憧れを思い出させてくれる。今年は、童心に帰って小さな旅を楽しもうか。

 

2023.02.07:orada3:コメント(0):[駅茶こぼれ話]

5日ぶりの列車音

  • 5日ぶりの列車音

 フラワー長井線は先月31日から運休していたが、4日午後、5日ぶりの運行を開始した。あやめ公園駅から羽前成田駅間の踏切に障害が発生したための運休だそうだ。地元紙によれば線路上に列車がいることなどを感知する装置のケーブルの断線が原因だという。ケーブルは耐用年数が40年ほどで、山形鉄道が開業した1988年(昭和63年)以前から使用していたとみられ、経年劣化が原因で断線した可能性があるという。

 

 2018年(平成30年)山形鉄道開業30周年の1月末、約10日間の運休があった。大雪によって除雪作業が間に合わず、除雪車両がダウンしたのに加えて試走車両が雪に乗り上げる事故が発生したものだ。この時の通学に係る混乱は大変なものだったと地元紙は伝えている。

 

 今回の信号機のトラブルによる運休によって、沿線にある南陽高校では200人超の1、2年生のうち100人程度が登校できずにオンライン授業となったとも報道されていた。コロナの経験が生かされたことを喜ぶことはできない。せめて山鉄社員が安心して業務を遂行できる設備基盤が確立されることを祈りたいものだ。

 

 2018年の様子はこちらから

 → 大雪だ、頑張れ山鉄!:山形鉄道 おらだの会 (samidare.jp)

 

 

【おらだの会】写真は小口昭氏「長井線今・昔」より。ラッセル車には工務区の社員4人が乗り込み、雪が多い時は午後10時から翌朝4時半ごろまで作業をするのだという。

2023.02.05:orada3:コメント(0):[駅茶こぼれ話]