第18話  10年後の君たちへⅡ (鮎貝駅)

  • 第18話  10年後の君たちへⅡ (鮎貝駅)

 小学生となった娘を連れて、何年かぶりで故郷に帰って来た。娘は新幹線では立派に乗っていたが、長井線に乗り替えた途端に、「お母さん電車の窓が開けられるよ、すごい!」とはしゃぎだした。

 

 蚕桑駅を過ぎて鮎貝駅に向かう。ここからは長井線の中でも、私が特に好きな景色が展開する。そもそも長井線は高低差が少なくしかも単調な田園風景が続く路線です。そんな中で蚕桑~鮎貝間の3.3キロは、勾配12.5パーミル(1000m走って12.5m下がる傾斜。)の区間が1.3キロも続きます。西山山麓を水源とする中小の河川が幾筋も深い谷を刻み、樹木がうっそうと茂る中を疾走します。そこを抜けると一転して明るい台地が開け、雑木林の里山風景の中を駆けて行くのです。最後は台地の頂上から、最上川が造った氾濫湿原の底に真っ逆さまに落ちていきます。「お母さん、ジェットコースターみたいだよ」と娘のテンションはマックスとなるのです。

 

 娘の興奮が冷めやらぬうちに「次は鮎貝、鮎貝」との車内アナウンスが流れた。この駅は私が高校の3年間汽車通学した駅だったことを話しながらホームに降りる。目に飛び込んできたのは、木製の長大看板である。今も残るこの看板を見ていると、夏休みの暑い体育館で友達と絵を描いたあの時の光景が蘇ってきた。

 

 私が小学校6年生の時、O先生からの「山形鉄道誕生10周年を記念して、鮎貝駅に飾る看板を作ります。長井線の絵を描きたい人は職員室に来てください」との呼びかけに応えて、友達同士で参加したのだ。校長先生も来て指導してくれたし、「鮎ちゃんの絵も、りんごちゃんの絵もうまいぞ!」とほめてくれた。とても嬉しかった。

 

 校長先生は最後に「10年後きみたちはフラワー長井線と同じく二十歳になる。君たちが社会の主役になるんだぞ、頑張れよ!」と言って、看板にメッセージを挿入してくれました。あの時の校長先生とO生の優しいまなざしは、今でも鮮明に想い出されるのでした。

 

 いじめや校内暴力などの事件が毎日のように報道されています。けれども子供は昔と少しも変わっていないのだと思います。校長先生やO先生のように。子供たちと真剣に向き合ってくれる教師がいるならば、子供たちは素直に育つのだと思いたい。あれから三十年、先生は今どうしているのだろう。看板に私の名前を見つけて、はしゃいでいる娘を見ながら、この子も人生の師と呼べる人に出会って欲しいと思った。看板は色あせてはいるが、先生と友達との想い出は少しも色あせてはいないのだと思った。

 

  オンシトノ デアイ トモトノ ワカレ 

  エキニハ ソレゾレノ オモイデガ アル 

  ジュウネンゴノ ワタシタチハ 

  オンシノ トイニ 

  コタエルコトガ デキテイルノダロウカ

   

 

  長井線リポート (4)長井線でブラタモリ:おらだの会 (samidare.jp)

 

  長井線リポート(5) 10年後の君たちへ:おらだの会 (samidare.jp)

 

2023.05.18:orada3:[長井線読切りエッセー]

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