洋風建築が立ち並び、陸蒸気が汽笛を鳴らして出発する。日本における文明開化は順調のように思えるが、当時の鉄道用語からみると、欧米と日本とのギャップを如何に調整するか、と苦心した姿が見えてくる。
その一つが「ステーション」である。『駅のはなし』には、新橋ステーションという名が使われている。また前回までに紹介した浮世絵のキャプションにも「新橋ステーション」の文字が見られる。これは鉄道開業の4か月前(明治5年5月4日)に布告された太政官第146号(鉄道略則)の規定に基づくもののようである。同略則ではチケットあるいは乗車券を「手形」、駅を「立場(たてば)」と表記している。また鉄道略則には、現在にも通じるような規定があるので紹介します。
///第7条 喫煙並びに女性専用部屋への男性立ち入り禁止
「ステーション」構内の禁煙箇所ならびに禁煙車内においては、喫煙を禁止する。また女性のためにある車両および部屋等に男性がみだりに立ち入ってはならない。もしこれらの禁止事項を犯し、係の者の注意を聞かない者は、車外ならびに鉄道構外にすぐに退去させる。///
明治33年には鉄道営業法が制定され、鉄道略則は廃止された。鉄道営業法では、ステーションは「停車場」に、手形は「乗車券」と表記されている。ちなみに現在一般的に使用している「駅」という用語を確認できたのは、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の次の条文である。
///鉄道営業法(明治33年法律第65号)第1条の規定に基づき、鉄道に関する技術上の基準を定める省令を次のように定める。
(定義)
第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1~6 (略)
7 駅 旅客の乗降又は貨物の積卸しを行うために使用される場所をいう。
8 信号場 専ら列車の行き違い又は待ち合わせを行うために使用される場所をいう。
9 操車場 専ら車両の入換え又は列車の組成を行うために使用される場所をいう。
10 停車場 駅、信号場及び操車場をいう。
11 車庫 専ら車両の収容を行うために使用される場所をいう。///
史料の見落としがなければ、「駅」が法律上登場するのは平成13年ということになる。江戸時代に宿場間に置かれた馬や役夫の中継地を指す「駅」と混同しないように配慮された、という解説もみられたが、新しい社会システムを民衆に周知させることは、建物等の建設以上に難しい問題であったのかもしれない。



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