「駅」のはなし(3) 駅の魅力

  • 「駅」のはなし(3) 駅の魅力

 明治初期に洋風建築が多く建てられ、文明開化のシンボルとなった。けれども庶民にとって、それらの建物のほとんどは、見慣れた景観の中に忽然と現れた異彩を放つランドマークとして、遠くから眺めるだけのものであった。だが新橋駅や横浜駅は違っていた。駅は誰でも自由に出入りすることができる、庶民に開放されていた建築物だったからである。駅舎の自由な空間は、長い間の封建制度から解放された自由を満喫することができた唯一の場所であったといえるかもしれない。作家の永井荷風は、明治44年に書いた「紅茶の夜」の中で、「新橋ステーション」の持つ独特な情景を次のように表現している。

 

///この広い室の中にはあらゆる階級の男女が、時として其の波乱ある生涯の一端を傍観させてくれる事すらある。略。新橋の待合所にぼんやり腰をかけて、急(いそが)しさうな下駄の響きと鋭い汽笛の声を聴いてゐると、居ながらにして旅に出たやうな、自由な淋しい心持がする。略。自分は動いてゐる生活の物音の中に、淋しい心持を漂はせるため、停車場の待合所に腰をかける機会の多いことを望んでゐる。///

 

 この文には駅の雑踏の中で感じる孤独とやすらぎ、そして旅への憧れと不安とが込められているように思う。それは現代の私たちにも通じる「駅の魅力」でもある。

2025.12.08:orada3:[駅茶こぼれ話]

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