第15話 逢いたい人に逢えそうな場所  (羽前成田駅)

  • 第15話 逢いたい人に逢えそうな場所  (羽前成田駅)

 羽前成田駅は、長井線が長井駅から鮎貝駅まで延伸開通した大正11年(1922年)に開業しました。洒落た半切妻のポーチが乗降客を迎える洋風基調の駅舎です。構内カウンターを支える持ち送りには幾何学的な意匠、荷物受付窓口の腰板は一枚板の掘り込み、屋根の破風板端部にも装飾的な彫りが施され、大正期からの鉄道の歴史を伝える貴重な建築と言われています。平成27年(2015年)8月4日、駅本屋が西大塚駅と共に登録有形文化財に登録されました。

 

 

 若い二人連れが、駅舎のあちこちをカメラに収めている。女の子が待合室の囲炉裏を眺めながら、「懐かしいねぇ。逢いたい人に逢えそうな場所だね。」と言った。相方も笑顔で頷いている。

 

 この駅に母と訪れたのは3年前の8月。西山の麓にある母の実家に誰も住まなくなって、お墓を東京に移す準備に来たのだった。お寺さんと親戚に挨拶をして、帰りの列車を待っていた。防雪林の間から爽やかに風がそよぎ、風鈴の音色も涼やかだった。

 

 母は問われるともなく語り始めたものでした。「この駅から高校に通ったんだ」、「就職するときには、ここでみんなに見送ってもらったものだ」。「お正月に帰った時は、お父さんがここまで迎えに来てくれた。車の中では何から話したらいいか悩んだもんだよ。」と。私はその時、故郷の家やお墓を棄てなければならない母にとって、この駅が昔のままに残っていてくれて本当によかったなと思ったものでした。

 

 今日は一人でこの駅を訪れ、母と過ごした時間を想い出している。あの時と同じ景色を眺めながら、母の人生に思いを馳せています。ここは私と母の想い出の場所、そして逢いたい人に逢える場所だと思うのです。想い出の場所を守っていてくれてありがとうございます。

2023.03.22:orada3:[長井線読切りエッセー]

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