車内アナウンスが次の停車駅を告げる。窓越しに高校生がホームで談笑している姿が見えた。木島は、整理券とコインを運転手に渡して、ホームに降りた。白ツツジが描かれたシールが貼られたサッシ戸を開けて、待合室に入る。長い壁には列車時刻表やポスターなどに交じって「物語のある風景」と題した長井高校写真部の作品が展示されていた。木島は、飾られた作品を見ながら、「あの頃と同じだなぁ」とつぶやいた。
木島は高校の3年間は、学校の近くに下宿して、週末に家に帰る生活を送っていた。クラブ活動は写真部。もともとは「帰宅部よりはいいだろう。」と入部した木島であったが、同級生が4人しかいなかったので、部長になってしまった。部長になったとたんに、羽前成田駅で活動しているおらだの会の人達と交流が生まれ、同駅の写真展を見学したり、プロの鉄道写真家の指導を受けたり、さらには初めての校外展を開催することになったのでした。展示会場となった羽前成田駅では、地元の人達の芋煮会を手伝う羽目になった。見知らぬ大人達の前で挨拶をした際の緊張感を、今も可笑しく思い出すのでした。
木島が今も大事にしまっているものが二つある。一つは同級生が撮ってくれた1枚の写真で、木島ともう一人の同級生と顧問の先生が、夕方のホームでカメラを構えている写真である。もう一つが、顧問の先生が書いた第1回の校外展の挨拶文である。
「物語のある風景~高校生がつくる長井線物語」をテーマとし、カメラを手に沿線をめぐった生徒たちには、いったい何が見えたのでしょうか。一見するといつもと変わらない日常の風景も、そこに自分自身や友人の姿を映しこむ1枚にすることで、『あのとき、わたしは、みんなと、確かにこの場所にいた・・・』という貴重な「記憶」の1枚になったのではないでしょうか。ぜひ生徒たちには、10年後、20年後、この1枚の「記憶」を手に取ってもらい、そこに描かれた「物語」にもう一度思いをはせてもらえればと思います。ご来場になった皆さまにも、高校生が描いた「物語」を少しでも感じとっていただければ幸いです。 長井高校写真部顧問
上り列車に乗る生徒たちがホームに集まり始めた。私は、確かにみんなと、この場所にいたのだ。『長井線物語』は私にとって最高に美しい物語であった。木島は思った。それぞれの道を頑張っている友達と恩師を囲んで、その後の物語を語り合いたいものだと。
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