「屋根のついた公園」(岐阜市立中央図書館=3日付当ブログ)は大手旅行代理店「トラベルjp」が選ぶ「日本の美しい図書館8選/旅してでも行きたい優しい場所」の第3位にノミネートされている。複合施設「みんなの森 ぎふメディアコスモス」は世界的な建築家、伊東豊雄さんの手によって、図書館を含めた見事な造形美に創り上げられた。ちなみに、上位2か所は中嶋記念図書館・国際教養大学(秋田県)と東洋文庫(東京都)である。
県産材のひのきが用いられた大屋根、近未来を照らし出すようなドーム型の空間、「グローブ」と名づけられた、クラゲのような照明傘…。実際に足を運んだことはまだないが、写真の数々を見ているだけで、イメージがどんどん、ふくらんでいく。県内外から訪れる観光客らの中にはその”造形美“をひと目見ようという人も多いという。伊東さんは設計に当たり、次の4点をキーワードに掲げた。余りにもきめ細かい設計に圧倒された。新花巻図書館の建設に資するためにも、その詳細を以下に記す。
●金華山や長良川に呼応する文化の森をつくります
・岐阜駅─長良川─金華山をつなぐ緑の拠点をつくることで、街に緑のネットワークが広がっていくことを期待します。
・金華山の生い茂った深い森に対して、この地域の文化や環境にふさわしい樹種を選びながら、多様性のある明るい森をつくります。
・240mの長さの並木道をつくることで、都市軸を強固なものとします。
・この場所が人々の生活の中心の1つとなるよう、柔軟な使い方が出来る外部空間を用意することで、市民の多様な活動を支援します。
・長良川の伏流水を利用したせせらぎをつくることで、様々な人の活動や生物の多様性を生み出します。
・広場や並木道が建物と連携し、まちなかの避難所として利用できるよう計画を行います。
●大きな家と小さな家を組み合わせることで、にぎわいのある「まち」のような建築をつくります
・計画地の広さを生かし、低層で敷地いっぱいに広がった大きな「まち」のような建物をつくります。
・図書館、市民活動交流センター、展示ギャラリーなどがそれぞれ別に組織されていたとしても、極力一体感を生み出すような視覚的関係をつくり、常にどこかがにぎわっている「まち」のような建築を実現します。
・この「まち」は点在する小さな家を大きな家で包み込むことでつくられます。
・「小さな家」はそれぞれ個性をもった親密な空間で、「大きな家」は全体をおおらかに包み込むシェルターです。この2つの家が重なることで、様々な選択性のある場所や環境がつくられます。
●自然エネルギーを最大限に活用し、消費エネルギー1/2 の建築を実現します
・小さな家としての「グローブ」と大きな家としての「木製格子屋根」が組み合わされることで、光や温熱環境の省エネルギー化に寄与します。
・建物直下に流れている長良川の伏流水をくみ上げ、その温度を十分に利用した熱源計画とします。
・全国的にみても日照時間に恵まれた敷地の特性を活かして、太陽光を十分に利用した計画とします。
・床面を輻射によって冷暖房する方式を採用することで、体感的に快適で気持ちの良い空調計画とします。
・上記項目や高効率な照明計画、最新の設備機器などを上手に組み合わせることで、建物において使われるエネルギーを1990 年の同規模建物と比べて「50% 削減」します。
●「 グローブ」と「木製格子屋根」を組み合わせることで大きな家と小さな家を実現します
<グローブ>
・この半透明で、大きくて、床から浮かんだ逆さまの漏斗形状のかさを「グローブ」と呼ぶことにしました。
・グローブは上部トップライトからの自然光をおだやかに室内に拡散させます。また、夜にはグローブ内に設けられた照明のシェードにもなります。
・グローブは上部に設けられた開閉式の水平窓を開けることで、自然な風の流れを生み出します。機械による空調ではなく、エネルギーをかけずに2階の大空間を換気することができます。
・グローブはポリエステル製の糸を3方向の軸で織み込んだ生地を中心につくられています。この生地を型にあてて熱成型した後、水平のロッド材を足しながらかたちづくられます。
・グローブには、その性能を最大限に発揮する為に、反射・透過率などを調整する薄い布地が貼られています。この円形や六角形の布地がそれぞれのグローブで異なる柄をつくることで、建物内でのサイン計画を補足する役割も持っています。
<木製格子屋根>
・木製の格子状の屋根は、ただの仕上げ材ではなく、構造材として働いています。
・この屋根は、120mm×20mm という街なかで流通しているようなサイズのヒノキ材を現地で積み重ねていくことでつくられました。最も分厚いところで、この材料を3方向に7枚ずつ、合計21 枚積み重ねています。
・それぞれの層は職人さんたちの手作業により、接着剤とビスを用いて強固に取り付けられています。
・グローブ上部でむくりあがったような全体の曲面形状は、木材に特別な難しい加工をすることなく、そのしなりを活かして、現地で形状になじむように積み上げながらつくられました。
・これらのヒノキ材は全て、岐阜の県産材である「東濃ひのき」が使われています。
まさに「屋根のついた公園」そのもののイメージである。一方、新花巻図書館にかかる「事業費比較」調査に当たっても、土地利用計画や建物の内外観のイメージ図が作成されることになっている。「駅前か病院跡地か」―その回答はもはや、誰の目にも明らかであろう。豊富な森林資源に恵まれた当市においても、霊峰・早池峰を仰ぎ見る「屋根のついた公園」の実現は夢ではない。「駅前図書館」はそもそもの図書館固有の存在意義から問い直されなければならない。
(写真は地元の「東濃ひのき」を使った大屋根。館内に点在する11個の「グローブ」が小さな家をイメージさせる=インターネット上に公開の写真から)