流れに乗り切れずに列車を降りた。暗い待合室の向こうに、眩いばかりの光が見えた。途中下車をしても、一歩を踏み出すのは自分なのだと思った。
停車場憧憬 それは自分との語らいの時である
停車場のある風景は、全くありふれた日常の中にある。しかしその風景は、人生のそれぞれの場面で、異なった表情を見せることがある。
停車場憧憬。それは、私自身の心の風景でもある
春の光の中で
遥か彼方の
山の残雪が眩しかった
南の空に聳えるその姿は
未知なる世界がここにある
まどろみに抗して起き上がれと
言っているようだった
立ちのぼる陽炎の中で
彼方と此方を繋ぐ軌道が
逡巡する心のように
揺れていた
花と草の違いもわからず
どうすれば良いかわからない私に
ガーデニングのお師匠さんが教えてくれた
強い花より弱い花を大事にすればいい
弱い花の居場所を作ってあげればいいんだよと
私は強い花なのか、弱い花なのかと
自問している間に、お師匠さんは言葉を重ねた
この花を守ってあげてくださいねと
駅舎に降り立つと賑やかな声が聞こえて来た
花見の宴の真っ最中だ
人の良さそうなおじさんが赤ら顔をして
一緒に酒を飲んでいけと声をかけてくる
おばさんたちが手際よく山菜の天ぷらを差し出してくる
訳のわからないうちに自己紹介をさせられ
乾杯までしている自分がいた
こんな風景をどこかで見たような気がする
旅をしながら
こんな村を探していたのかもしれない