卯の花姫物語 5-⑥ 三淵明神様々の伝説

三淵明神様々の伝説 其の二
 一方それと相呼応して平山にも伝説がある。即ち前述桂江が一男・半三郎経春が末裔の青木家でも、同白姫が神霊御通過の刻限に、累代同家の主人は羽織り袴の盛装になって野川の河原にある平らかな大石がある上に円座をしいて端然と座っておる。前に机を置いて御神酒献前物のお供えを飾って、百目蝋燭二丁を灯ぼし神霊の御通知をお迎えする。
 愈々いつもの刻限になると、それ迄で如何なる晴天であるとも、一天俄かにかき曇って黒雲天運を覆う。神霊頭上を御通過の刻には、ざあざあと大雨が降ってくる。その時、同家の主人は恭や恭やしく低頭半身しておると、頭上の黒雲の中からいともさわやかなる御声で、「半三郎、大儀」の御一言を賜って、ずーと御通過になられると云う。勿ち雨止み雲晴れ、天日晄々と輝き渡ること以前に均しと云うことで、主人は少しも身体が濡れないと云うのである。
 現在では同家の座敷の縁側の戸を開いて、そこに同様の献前物を御飾りして行事を執行しておると云うことである。今、川原にある大石には、円座をしいた痕がありありと付いて残っておると云い伝えられておる。
 更に同家では、神霊の例祭としては姫が命日の八月一日を以って執行する行事を繰り返して今日に至っておるのである。其日には先祖桂江が、姫が命を奉じて安倍ケ館山の牙城を脱出の際に、主君の形見として拝領した二た品を以って、御神体として祭祀した創立であるのを、床の間に安置して献前物御神酒等を捧げて礼拝するを恒例として執行しておるのは、昔に変わることなく継承しておると云う。
 先年私共は例祭日の陰暦八月一日に同家を訪ねて御神霊の参拝を願った。御霊の拝観をも許されたので光栄身に余ることを思って、参拝の上、御形見の御霊を拝観したのである。真に立派な信仰の対象であることを感銘した次第である。注(以上二つの伝説の項は、筆者が若年の頃古老から聞いた記憶のものを、わざと修正等は一切加えず覚えの通りを記述したものである。)
 いざや本文に戻って叙述の順序を推進して、清原氏がその後の興亡史に項を転じよう。姫が終生嫌悪の対照の人物であった斑目四郎武忠が末路を、明らかにして本文の全局を結すばんとするものである。
2013.01.15:orada:[『卯の花姫物語』 第5巻]

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