おせきの物語 ④ | 修正 | 削除 | コメント投稿 |
【源右エ門】 おお、おせきか。
【お せ き】 旦那様、お帰りなさい。お疲れでしょう。晩御飯の用意が出来ております。さあ、家にお入りください。
――― 源右エ門は、「ああ、そうだな」と言いながら、家の中に入っていく。家の中では、およしがご飯をよそり、惣三郎が正座して、源右エ門を待っている。
【お よ し】 あなた、お疲れ様。
【惣 三 郎】 源右エ門殿、お帰りなさい。
【源右エ門】 ああただいま、いやあ腹が減った。早速いただくか。
――― 四人が食事をする。しばらくして
【お よ し】 あなた、工事の方は、いかがですか。
【源右エ門】 うん、いままでのところは順調だが、これからが問題だ。あの、こぶしが原がなあ・・。それより、およし。今日の味噌汁は、ちょっと甘いなあ。
【お よ し】 今、部落の婦人会で、減塩食品を勉強しているんですよ。しょっぱいなは、体に悪いんだってよ。
――――― 間
【源右エ門】 ところで、惣三郎殿は、いくつになられた。
【惣 三 郎】 二十と一でございます。
【源右エ門】 そうか、二十一か。そなたの父上に、わが子に学問を教えてくれと頼まれてから、早二年じゃのう。学問はもう十分じゃ。わしは、何も教えることがのうなった。
【惣 三 郎】 源右エ門殿に教えていただいたこの二年。私にとりましては、長いようで、短いものでございました。このご恩は、一生忘れません。ところで、源右エ門殿。私はこれから、米沢に参って、剣の修行をいたし、藩の仕官になりたいと思います。
【源右エ門】 うむ、それが良かろう。(やや間をおいて) ところでのう、惣三郎殿。そろそろ、身を固めてはどうかな。
―――― 惣三郎、驚いて顔を上げる。
【源右エ門】 いやいや、今すぐという訳ではない。結婚は、仕官になってからでも良いが、せめて、婚約だけでもしてはどうかなと思うのじゃが。そこでなんじゃが、ここにいるおせきは、どうかな。おせきの父は、最上家の侍大将だった方だ。おせきは、れっきとした武士の娘じゃ。おせきがまだ六つの頃、上杉家に向かう途中、病に倒れた。その後、おせきは、私が、父の名に恥じぬよう教育してきた。どうじゃな、惣三郎殿。
【惣 三 郎】 おせき様をですか。いや、もったいのうございます。源右エ門殿と奥様が、それこそ大事になさっているおせき様を、私のような者の妻にとは、身に余る幸せでございます。しかし、おせき様は、ご承知のことでしょうか。
【源右エ門】 おせき、お前はどうじゃ。
――― おせき 恥じらいながら
【お せ き】 惣三郎様は、旦那様が選んでくれた方でございます。惣三郎様さえよろしければ、私には、少しの不足もございません。惣三郎様、ふつつかものではございますが、何卒、お仕えさせていただきとうございます。 ――― おせき、惣三郎共に、深く頭を下げる。
【源右エ門】 わっはっはっは、いやアめでたい、めでたい。
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おせきの物語 ④
2012.12.15:orada:コメント(0):[成田村伝説№1 おせきの物語]
おせきの物語 ⑤
【お よ し】 ほんとにねえ、あなた。ほんとにお似合いの夫婦だよ。
【源右エ門】 おせきよ、わしは、やっとお主の父との約束を果たせるぞ。およし、酒じゃ、酒を持って来い。
――― およしが、「はい」と言いながら、目頭を押さえながら席を立ち、酒を取ってくる。この間、遠くから、祭囃子が聞こえてくる。
【源右エ門】 惣三郎殿、おせき、形ばかりじゃが、婚約の盃じゃ、さあ。
【惣 三 郎】 有難き幸せにございます。おせき様を、必ず幸せにしてみせます。
【お せ き】 旦那様、奥様、ありがとうございます。
――― おせき、最後は声にならない。祭りの音が聞こえてくる。盃を交し合う。
【源右エ門】 きょうは、貴船明神のお祭りじゃ。ほんにめでたいのう。
――― 源右エ門、およしとうなづきながら、互いに涙ぐんでいる。祭りの音が、次第に近くに聞こえてくる。村人が下手より、源右エ門の家に向かって来て、戸を叩く。
【村 人】 旦那、源右エ門の旦那、お獅子様が来たぞい。迎えてくだせえ。
【源右エ門】 おお、来たか。今行くぞ。およし、お神酒の用意をしろ。おせき、惣三郎、さあ、行こう行こう。
――― 四人が外に出て迎えると、下手より、獅子と村人たちがやって来る。口々に大声で叫びながら、やがて、獅子が源右エ門の前あたりで威勢よく踊る。獅子にあわせて、歓声が上がる。獅子舞がひと段落ついた頃。
【源右エ門】 おせきよ、わしは、やっとお主の父との約束を果たせるぞ。およし、酒じゃ、酒を持って来い。
――― およしが、「はい」と言いながら、目頭を押さえながら席を立ち、酒を取ってくる。この間、遠くから、祭囃子が聞こえてくる。
【源右エ門】 惣三郎殿、おせき、形ばかりじゃが、婚約の盃じゃ、さあ。
【惣 三 郎】 有難き幸せにございます。おせき様を、必ず幸せにしてみせます。
【お せ き】 旦那様、奥様、ありがとうございます。
――― おせき、最後は声にならない。祭りの音が聞こえてくる。盃を交し合う。
【源右エ門】 きょうは、貴船明神のお祭りじゃ。ほんにめでたいのう。
――― 源右エ門、およしとうなづきながら、互いに涙ぐんでいる。祭りの音が、次第に近くに聞こえてくる。村人が下手より、源右エ門の家に向かって来て、戸を叩く。
【村 人】 旦那、源右エ門の旦那、お獅子様が来たぞい。迎えてくだせえ。
【源右エ門】 おお、来たか。今行くぞ。およし、お神酒の用意をしろ。おせき、惣三郎、さあ、行こう行こう。
――― 四人が外に出て迎えると、下手より、獅子と村人たちがやって来る。口々に大声で叫びながら、やがて、獅子が源右エ門の前あたりで威勢よく踊る。獅子にあわせて、歓声が上がる。獅子舞がひと段落ついた頃。
2012.12.15:orada:コメント(0):[成田村伝説№1 おせきの物語]
おせきの物語 ⑥
【源右エ門】 皆の衆、ちょっと聞いてくれ。実はな、ここにいるおせきと惣三郎が、夫婦の約束を交わしたのじゃ。みんな、二人を祝ってやってくれ。
――― 村人口々に「ありゃ、ほんとが」「いやあ、めでたい」「ほんにのう」などと言い、うなづきあう。おせき、恥ずかしそうにしている。
【村 人】 何じゃ、旦那。おれ、おせき様と一緒になる気でえだったじば。
【村 人】 ばが、お前みてえな、おせき様と一緒になんかされっかそ。
―――― 村人「んだ、んだ」
【村 人】 んじゃ、おれあ、○○と一緒になんべ。なあ、えがんべ○○。
――― と○○の方に歩いていって、肩に手を置こうとするが
【村人(女)】 わたしだって、選ぶ権利あんなだ。(と肩をすかし、村人こける。一同大笑い。)
【村 人】 ほんに、おせき様は、いい娘だもの。惣三郎様もうれしがんべげんど、一番うれしいなは、旦那様とおよし様だべ。
【村 人】 ほだほだ。旦那様なんか、ほんとはおせき様ば、嫁になぞけっちゃぐねえなだべ。(源右エ門の顔を覗き込む。)
【村 人】 ほんによ。おせき様が肺炎になった時なんか、およし様と旦那様、三日三晩看病しった、つうでねえか。
【村 人】 んだんだ。そしてよ、そんでもえぐなんねくて、長井村の医者まで、おぶってしぇでったごで。あの、もさもさ雪の降っとぎよ。
【村 人】 ほんにな。あの晩なんぞ、およし様は、貴船明神さ、お百度踏んだったけもな。
【村 人】 ほだほだ、おせき様こんげにちゃっこい頃でよ。ほんとの親だて、あんげなごどさんにぇ。
――― おせき、およしの方を見て、下を向く。およし、目頭を押さえている。(間)
【村 人】 それにしても、俺ゃ、結婚相手間違ったえ。おせき様みでな人ど一緒になればえがったえ。
【村人(女)】 なに言ってんなだ、父ちゃん。父ちゃんのおがげで、十一人も子供生ましぇらっちぇ。ほら、十二人目の子供、こごさえだぞは、なんじょすんなだ。
――― 腹を叩いて見せながら、夫の腕をつねる。「いててて、わりがった、わりがった」村人達大笑い。
【源右エ門】 夫婦喧嘩もそれぐらいでいいだろう。
【村 人】 んだんだ。ようし、みんな、おせき様と惣三郎様の結婚を祝って、盛大にやんべ。
―――― 村人「ようし、やんべ、やんべ」と言いながら、また獅子踊りを始める。
【村 人】 さあ、みんな、明神様さいくぞ。
――― 「おー」一同下手に下がる。おせきと惣三郎が二人残る。村人がこれに気づいて、
【村 人】 おせき様もあえべ。
【村 人】 お前は、ほんとうに鈍いなあ。気い使わんなねごで。
――― 村人「んだんだ」「ほんにお前は馬鹿だな」と言いながら下手に下がる。祭りの音が、次第に遠ざかる。舞台には、二人だけ。中央に歩み寄りながら、スポットライトが二人を照らし出す。
――― 村人口々に「ありゃ、ほんとが」「いやあ、めでたい」「ほんにのう」などと言い、うなづきあう。おせき、恥ずかしそうにしている。
【村 人】 何じゃ、旦那。おれ、おせき様と一緒になる気でえだったじば。
【村 人】 ばが、お前みてえな、おせき様と一緒になんかされっかそ。
―――― 村人「んだ、んだ」
【村 人】 んじゃ、おれあ、○○と一緒になんべ。なあ、えがんべ○○。
――― と○○の方に歩いていって、肩に手を置こうとするが
【村人(女)】 わたしだって、選ぶ権利あんなだ。(と肩をすかし、村人こける。一同大笑い。)
【村 人】 ほんに、おせき様は、いい娘だもの。惣三郎様もうれしがんべげんど、一番うれしいなは、旦那様とおよし様だべ。
【村 人】 ほだほだ。旦那様なんか、ほんとはおせき様ば、嫁になぞけっちゃぐねえなだべ。(源右エ門の顔を覗き込む。)
【村 人】 ほんによ。おせき様が肺炎になった時なんか、およし様と旦那様、三日三晩看病しった、つうでねえか。
【村 人】 んだんだ。そしてよ、そんでもえぐなんねくて、長井村の医者まで、おぶってしぇでったごで。あの、もさもさ雪の降っとぎよ。
【村 人】 ほんにな。あの晩なんぞ、およし様は、貴船明神さ、お百度踏んだったけもな。
【村 人】 ほだほだ、おせき様こんげにちゃっこい頃でよ。ほんとの親だて、あんげなごどさんにぇ。
――― おせき、およしの方を見て、下を向く。およし、目頭を押さえている。(間)
【村 人】 それにしても、俺ゃ、結婚相手間違ったえ。おせき様みでな人ど一緒になればえがったえ。
【村人(女)】 なに言ってんなだ、父ちゃん。父ちゃんのおがげで、十一人も子供生ましぇらっちぇ。ほら、十二人目の子供、こごさえだぞは、なんじょすんなだ。
――― 腹を叩いて見せながら、夫の腕をつねる。「いててて、わりがった、わりがった」村人達大笑い。
【源右エ門】 夫婦喧嘩もそれぐらいでいいだろう。
【村 人】 んだんだ。ようし、みんな、おせき様と惣三郎様の結婚を祝って、盛大にやんべ。
―――― 村人「ようし、やんべ、やんべ」と言いながら、また獅子踊りを始める。
【村 人】 さあ、みんな、明神様さいくぞ。
――― 「おー」一同下手に下がる。おせきと惣三郎が二人残る。村人がこれに気づいて、
【村 人】 おせき様もあえべ。
【村 人】 お前は、ほんとうに鈍いなあ。気い使わんなねごで。
――― 村人「んだんだ」「ほんにお前は馬鹿だな」と言いながら下手に下がる。祭りの音が、次第に遠ざかる。舞台には、二人だけ。中央に歩み寄りながら、スポットライトが二人を照らし出す。
2012.12.15:orada:コメント(0):[成田村伝説№1 おせきの物語]
おせきの物語 ⑦
---舞台には、二人だけ。中央に歩み寄りながら、スポットライトが二人を照らし出す。
【惣 三 郎】 おせき様
【お せ き】 はい(小さな声で)
【惣 三 郎】 わしは、源右エ門殿に、初めて参ったその時から、わしの妻はこの人だと思っていました。おせき様は、私と夫婦になることに不満はありませんか?
【お せ き】 とんでもございません。私も、惣三郎様にお会いしたその日から、この人の妻になりたいと心に決めておりました。私は、本当にうれしゅうございます。
【惣 三 郎】 ほんとにか。(おせきうなづく)旦那様は、わしらの心を見抜いていてくれたんじゃな。
【お せ き】 ええ、ほんとに。私は、旦那様と奥様に、この命を助けられた身。何も恩返しができないのが、申し訳なくて・・・。
【惣 三 郎】 それはわしも同じことだ。わしは、旦那様の恩に報いるためにも、お前をきっと幸せにしてみせるぞ。おせき、わしは、仕官となってお前をもらいに来る。それまで、待っていてくれるな。
【お せ き】 はい、きっとお待ちしております。惣三郎様、愛する人を待つことは、少しも辛くはございません。立派になってお帰りになるのを、おせきは、いつまでもお待ち致しております。
【惣 三 郎】 おせき!
【お せ き】 惣三郎様!
――― 惣三郎、おせきの肩を抱き寄せる。ちょうどのそのタイミングに、舞台上手より、村人が風呂敷を持って来て、二人のラブシーンを隠す。ライトが消えて、幕が降りる。
【惣 三 郎】 おせき様
【お せ き】 はい(小さな声で)
【惣 三 郎】 わしは、源右エ門殿に、初めて参ったその時から、わしの妻はこの人だと思っていました。おせき様は、私と夫婦になることに不満はありませんか?
【お せ き】 とんでもございません。私も、惣三郎様にお会いしたその日から、この人の妻になりたいと心に決めておりました。私は、本当にうれしゅうございます。
【惣 三 郎】 ほんとにか。(おせきうなづく)旦那様は、わしらの心を見抜いていてくれたんじゃな。
【お せ き】 ええ、ほんとに。私は、旦那様と奥様に、この命を助けられた身。何も恩返しができないのが、申し訳なくて・・・。
【惣 三 郎】 それはわしも同じことだ。わしは、旦那様の恩に報いるためにも、お前をきっと幸せにしてみせるぞ。おせき、わしは、仕官となってお前をもらいに来る。それまで、待っていてくれるな。
【お せ き】 はい、きっとお待ちしております。惣三郎様、愛する人を待つことは、少しも辛くはございません。立派になってお帰りになるのを、おせきは、いつまでもお待ち致しております。
【惣 三 郎】 おせき!
【お せ き】 惣三郎様!
――― 惣三郎、おせきの肩を抱き寄せる。ちょうどのそのタイミングに、舞台上手より、村人が風呂敷を持って来て、二人のラブシーンを隠す。ライトが消えて、幕が降りる。
2012.12.15:orada:コメント(0):[成田村伝説№1 おせきの物語]
おせきの物語 ⑧
第 二 幕
幕は降りたまま。舞台裏から、「(村人)土手が崩れたぞおっ」「(源右エ門)危ない、みんな逃げろ」「(村人)堰が崩れたぞー」。すさまじい音の後に、源右エ門、村人達が下手より現れる。みな、疲れきり、ある者は呆然と空を仰ぎ、またある者は、互いの肩を支えあいながら登場する。
【村 人】 旦那、大丈夫でございますか?
【源右エ門】 ああ、大丈夫だ。それよりみんなはどうだ。怪我はないか。
――― 村人、元気なくうなづく。
【村 人】 それにしても、こぶしが原は、どうしても駄目だ。昔からあそこは、魔の淵と呼ばれてい
た所じゃ。堰を築こうにも、湧き水が多すぎて、土手が次々に崩れてしまう。
【村 人】 所詮は、無理なことだったんだ。この土地を田んぼにするなんて、馬鹿げた夢だったんだあ。
【源右エ門】 皆の衆の気持ちはよ~くわかる。でもな、今、俺達がやらなければ、誰がやるんだ。わしらが立っているこの土地にしたって、ご先祖様が、血のにじむような想いで、切り開いてくれたもんじゃないか。わしらは、今、生きているわしらは、何を子孫に残すんじゃ。わしらが幾ら苦しくっても、この堰を作ったなら、この村の子々孫々の繁栄につながるじゃねえか。皆の衆、わかってくれ。苦しくてもやらねばならないんだ。頼む、なあ○○、そうだろう○○。
――― 源右エ門が、村人達を励ますのを、村人達は、首をうなだれ聞いている。
【村 人】 旦那様、とにかく今日は、帰らせてもらうべ。みんなくたびれきっていますんでな。
【源右エ門】 ああ、そうしてくれ。みんなゆっくり休んでおくれ。○○、大丈夫か。よろしく頼むぞ。
――― 村人が肩を下ろし、足を引きづるようにして帰るのを、源右エ門はいつまでも見送っている。辺りは、とっぷりと暮れかかり、源右エ門は、空を見上げる。物陰からこの様子を見ていたおせきが、たまらずに駆け寄って来る。
幕は降りたまま。舞台裏から、「(村人)土手が崩れたぞおっ」「(源右エ門)危ない、みんな逃げろ」「(村人)堰が崩れたぞー」。すさまじい音の後に、源右エ門、村人達が下手より現れる。みな、疲れきり、ある者は呆然と空を仰ぎ、またある者は、互いの肩を支えあいながら登場する。
【村 人】 旦那、大丈夫でございますか?
【源右エ門】 ああ、大丈夫だ。それよりみんなはどうだ。怪我はないか。
――― 村人、元気なくうなづく。
【村 人】 それにしても、こぶしが原は、どうしても駄目だ。昔からあそこは、魔の淵と呼ばれてい
た所じゃ。堰を築こうにも、湧き水が多すぎて、土手が次々に崩れてしまう。
【村 人】 所詮は、無理なことだったんだ。この土地を田んぼにするなんて、馬鹿げた夢だったんだあ。
【源右エ門】 皆の衆の気持ちはよ~くわかる。でもな、今、俺達がやらなければ、誰がやるんだ。わしらが立っているこの土地にしたって、ご先祖様が、血のにじむような想いで、切り開いてくれたもんじゃないか。わしらは、今、生きているわしらは、何を子孫に残すんじゃ。わしらが幾ら苦しくっても、この堰を作ったなら、この村の子々孫々の繁栄につながるじゃねえか。皆の衆、わかってくれ。苦しくてもやらねばならないんだ。頼む、なあ○○、そうだろう○○。
――― 源右エ門が、村人達を励ますのを、村人達は、首をうなだれ聞いている。
【村 人】 旦那様、とにかく今日は、帰らせてもらうべ。みんなくたびれきっていますんでな。
【源右エ門】 ああ、そうしてくれ。みんなゆっくり休んでおくれ。○○、大丈夫か。よろしく頼むぞ。
――― 村人が肩を下ろし、足を引きづるようにして帰るのを、源右エ門はいつまでも見送っている。辺りは、とっぷりと暮れかかり、源右エ門は、空を見上げる。物陰からこの様子を見ていたおせきが、たまらずに駆け寄って来る。
2012.12.15:orada:コメント(0):[成田村伝説№1 おせきの物語]