おせきの物語 ⑤

【お よ し】  ほんとにねえ、あなた。ほんとにお似合いの夫婦だよ。
【源右エ門】  おせきよ、わしは、やっとお主の父との約束を果たせるぞ。およし、酒じゃ、酒を持って来い。
――― およしが、「はい」と言いながら、目頭を押さえながら席を立ち、酒を取ってくる。この間、遠くから、祭囃子が聞こえてくる。

【源右エ門】  惣三郎殿、おせき、形ばかりじゃが、婚約の盃じゃ、さあ。
【惣 三 郎】  有難き幸せにございます。おせき様を、必ず幸せにしてみせます。
【お せ き】  旦那様、奥様、ありがとうございます。
――― おせき、最後は声にならない。祭りの音が聞こえてくる。盃を交し合う。

【源右エ門】  きょうは、貴船明神のお祭りじゃ。ほんにめでたいのう。
――― 源右エ門、およしとうなづきながら、互いに涙ぐんでいる。祭りの音が、次第に近くに聞こえてくる。村人が下手より、源右エ門の家に向かって来て、戸を叩く。
【村  人】  旦那、源右エ門の旦那、お獅子様が来たぞい。迎えてくだせえ。
【源右エ門】  おお、来たか。今行くぞ。およし、お神酒の用意をしろ。おせき、惣三郎、さあ、行こう行こう。
――― 四人が外に出て迎えると、下手より、獅子と村人たちがやって来る。口々に大声で叫びながら、やがて、獅子が源右エ門の前あたりで威勢よく踊る。獅子にあわせて、歓声が上がる。獅子舞がひと段落ついた頃。

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