斑目四郎が横恋慕の立場益々有利
以上説いた様に清原武則がどちらに就くかの如何んは重大の中の重大で、周囲の国へ中央政府から派遣になっている文官の国司が応援などは有っても無くても同じことだと云う程度のものであった。情勢己でに以上の様であったからは其清原武則が最愛の四男と云う地位にある斑目四郎武忠が存在も隅には置けない価値となっておったのは云う迄もない事実である。
彼が姫を恋しておった多年の宿望を達し得られると思う一念がむらむらと起こってきたのである。元来吾がまま者で通して来た彼は、父の許しなど待っておられない、勝手に安倍貞任が許に外交手段の交渉を開始した。姫を俺が妻に呉れる事を承知して呉れるならば父武則を進めて納得させ一門を挙げて御身に味方して協力するから俺が望みも叶えさせて下さいの意味の手紙をどんどん送ってやる。貞任も常になら斑目四郎が存在などは余り大した事には思っておらなかったがこうした場合はそうはいかない。せつない説きにはわら一本にもたぐり付きたいのは人情のならいである。いわんや重大の中の重大問題である。早速文書で右の趣を古寺の山中に囲こまって置いた姫が許へ通じてやる。父の手紙が行く度に反対々不承知々の返事一点張りであった。
姫が心ではたとえ父の為だろうが安倍家一門の為だろうが、私が為には大事な々八幡殿を諦めて斑目四郎が嫁に行けなんと云う無理な命令に身でも従わないと云う決心であるから誰でも叶わないとはこの事である。遂々終いには父を反駿の書面をよこすと云う始末であった。其の文意はこう云うものであった。父上様はそんなに私の恋路を左右なさるならば貴方が今度の戦乱を起こされたのは女故のことからでは御座いませんか。私の恋愛ばかりをそんな無理に左右なされるとは何事で御座いますかと云う。又そればかりではなかった。始めて私が蜂満殿に見え奉ったのは父上様がご命令を遵奉して彼の殿に従い申しました。今更こんな私にして終まわれたのは皆貴方が責任で御座いますようと云う意味でなかったのである。
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