HOME > 記事一覧

おせきの物語 ③

第一幕
 舞台の下手より、手に手に鍬や鋤を持ち、笑い声を立てながら、源右エ門、村人がやってくる。背景には、葉山の山並みが照らされ、敬虔で荘厳な姿を映し出している。

【源右エ門】  いやあ、皆の衆ご苦労だったなあ。
【村  人】  今日はだいぶ、はがえった。旦那の顔も、ニコニコだったな。
     ――― 村人一同、笑い出す
【源右エ門】  皆の衆がよくやってくれる。わしは、それがうれしくてなあ。わしらの村は、土地が狭い。そして、その土地もやせていて、ろくな米もとれない。しかしのう、ここに堰を作って野川の水を引けば、この土地は、見事な土地に生まれ変わるだろうよ。のう、わしには、秋の真っ青な空に、黄金の稲穂が出そろうのが目に見えるようじゃ。

―――村人たち、観客(荒地)を見ながら、「ほんにのう、そのとおりじゃ」と言いながら、うなづきあう。

【源右エ門】  皆の衆、もう少しだ。宜しく頼むぞ。
【村  人】  ああ、もちろんだども。

【村  人】  ほんじゃ旦那様、今日は、ごめんくだせえ。
【源右エ門】  ああ、ゆっくり休んでおくれ。助三、今夜はかかあに、ゆっくり背中でも流してもらえや。
【村  人】  そうだ、助三。新婚だからって、あんまり疲れっこどすんなよ。
【村  人】  ほだほだ、お前、この頃、やしぇだんでねえが。

――― 一同、笑いながら帰っていく。一人残った源右エ門は、空を見上げて「きれいな夕焼けだ。」とつぶやく。そのとき、家の陰から、おせきが駆けてくる。
2012.07.07:orada:コメント(0)

おせきの物語 ②

第 一 場

夕映えの中に、旅の僧のシルエットが浮かび上がる。路傍の石碑の前に立ち、長い祈りの後に、観客の方に向きながら、静かな口調で語りかける。

【旅の僧】 これから私がお話しますのは、今からおよそ四百年前のことでございます。当時、この地方一帯は、まだ荒れた原野でございました。人々の生活は貧しく、日々の暮らしもままならないありさまでございました。
      そんな時、西館部落に住んでおりました手塚源右エ門という方が発起人になり、堰を掘り、この土地を開墾したい、と立ち上がったのでございます。その当時私は、この手塚源右エ門殿に、学問の修養に来ておりました。村人の熱意にもかかわらず、工事は、こぶしが原というところで困難を極めたのでございます。
      そして、それを救ったのが、おせきという当時十九歳の娘でございました。私は、この石碑の前に立つときに、古里の将来にかけた人達の情熱を思わずにはいられません。そして、私たちに、今、生きている私達に、お前たちはこの古里をどうするんだ、と語りかけているような気がしてなりません。

     それでは、私の話を聞いてください。
2012.07.07:orada:コメント(0)

おせきの物語 ①

  • おせきの物語 ①
おせきの物語

 この物語は成田駅の西側に、今もたたずむ供養等にまつわる物語です。
原作は、故菊地清三氏(五十川の岡鼠原地区出身)が、当時の「長井新聞」
に連載していたものです。この原作をもとに、昭和五十六年、地区文化祭において、当時の致芳地区青年団が上演した際の脚本を、復刻したものです。
 懐かしい駅舎の復活と合わせて、私達自身が地域を見直すきっかけとな
ることを願っています。また、成田駅を訪れた皆様が、私達の故郷に関心
を寄せていただき、地域に元気を与えてくれる一助となることを願ってお
ります。      成田駅前おらだの会 代表 宮崎征一

おせきの物語(二場 二幕)

 登場人物
  おせき
  手塚源右衛門
  およし(源右衛門の妻)
  惣三郎(旅の僧)
  村人達


2012.07.07:orada:コメント(0)

木村トシオ句集 つれづれの記④

9月・10月
 秋風に 色とりどりの 花心
 つかのまの 癒しの心 モミジ葉に 

11月・12月
 秋深し 添え木片手に 冬支度
 白き雲 今年も来たり 雪桜 (2005.12.3)
2012.07.07:orada:コメント(0)

木村トシオ句集 つれづれの記③

6月・7月
 大和楽 咲くや 五尺の あやめ草
 あやめ花 こよなく愛する 私かな
 霧の世に 心なごます あやめ花

8月
 大花火 長井の空に 舞い踊る

9月
 陽だまりを 袖に入れたる 穂波かな
 こがね色 実る稲穂に 秋の陽の 優しき光 我を包まん
 秋の陽に 実る稲穂のさざ波に 舞うがごとくに 蜻蛉群れ飛ぶ
2012.07.07:orada:コメント(0)