第 二 場
第一場と同じ場面になり、ややあって、旅の僧となった惣三郎が語る。
【惣 三 郎】 おせきの思いが通じたのか、こぶしが原の難工事も無事終わり、栃の木堰は、期限までに完成されたのでございます。源右エ門様は、その功績を認められ、苗字帯刀を許され、堰の総元締めの役を命ぜられたのでございます。
しかしながら、村人には、源右エ門様の成功をねたむ者が出てきたのでございます。そうした中で、おせきを人柱にしてまで元締めとなった、という噂が流れ、殺人の大罪人として、訴えられたのでございます。源右エ門様は、取調べに対して、少しの弁解もせずに、潔くことの次第を述べたそうでございます。その場にいた者達は皆、源右エ門が、まるで、処刑になることを待ち望んでいたように思えたそうでございました。
奉行所は、源右エ門の心を知りながらも、その身ははりつけ、屋敷は没収、家族は追放の断を下したのでございます。
――― 懐より手紙を取り出し、それを広げる。おせきの声で、手紙が読まれる。
【お せ き】 惣三郎様、おせきは、栃の木堰の成功を祈って、この身を捧げます。惣三郎様とは、たった一夜の契りではございましたが、私の短い人生の中で、最良の想い出でございました。 惣三郎様のために、私は、良い妻となりとうございました。やむにやまれぬ想いのもとに、先立つ身となりましたが、遠い空の上から、惣三郎様のお幸せをお見守り申しております。 あの世においても、私は、貴方の妻でありとうございます。黄泉の国にて、再会することがありましたら、何卒、私をお見捨てくださいませぬよう、お願い申します。
惣三郎様 おせき
――― 朗読が進むにつれて、惣三郎は次第に身を震わせ、最後は、スポットライトの中で、両膝をついてうずくまる。静かに、幕が閉じる。
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