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おせきの物語 ⑧

第 二 幕

  幕は降りたまま。舞台裏から、「(村人)土手が崩れたぞおっ」「(源右エ門)危ない、みんな逃げろ」「(村人)堰が崩れたぞー」。すさまじい音の後に、源右エ門、村人達が下手より現れる。みな、疲れきり、ある者は呆然と空を仰ぎ、またある者は、互いの肩を支えあいながら登場する。

【村  人】  旦那、大丈夫でございますか?
【源右エ門】  ああ、大丈夫だ。それよりみんなはどうだ。怪我はないか。
――― 村人、元気なくうなづく。
【村  人】  それにしても、こぶしが原は、どうしても駄目だ。昔からあそこは、魔の淵と呼ばれてい
た所じゃ。堰を築こうにも、湧き水が多すぎて、土手が次々に崩れてしまう。
【村  人】  所詮は、無理なことだったんだ。この土地を田んぼにするなんて、馬鹿げた夢だったんだあ。

【源右エ門】  皆の衆の気持ちはよ~くわかる。でもな、今、俺達がやらなければ、誰がやるんだ。わしらが立っているこの土地にしたって、ご先祖様が、血のにじむような想いで、切り開いてくれたもんじゃないか。わしらは、今、生きているわしらは、何を子孫に残すんじゃ。わしらが幾ら苦しくっても、この堰を作ったなら、この村の子々孫々の繁栄につながるじゃねえか。皆の衆、わかってくれ。苦しくてもやらねばならないんだ。頼む、なあ○○、そうだろう○○。
――― 源右エ門が、村人達を励ますのを、村人達は、首をうなだれ聞いている。
【村  人】  旦那様、とにかく今日は、帰らせてもらうべ。みんなくたびれきっていますんでな。
【源右エ門】  ああ、そうしてくれ。みんなゆっくり休んでおくれ。○○、大丈夫か。よろしく頼むぞ。
――― 村人が肩を下ろし、足を引きづるようにして帰るのを、源右エ門はいつまでも見送っている。辺りは、とっぷりと暮れかかり、源右エ門は、空を見上げる。物陰からこの様子を見ていたおせきが、たまらずに駆け寄って来る。
2012.07.07:orada:

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