【源右エ門】 おお、おせきか。
【お せ き】 旦那様、お帰りなさい。お疲れでしょう。晩御飯の用意が出来ております。さあ、家にお入りください。
――― 源右エ門は、「ああ、そうだな」と言いながら、家の中に入っていく。家の中では、およしがご飯をよそり、惣三郎が正座して、源右エ門を待っている。
【お よ し】 あなた、お疲れ様。
【惣 三 郎】 源右エ門殿、お帰りなさい。
【源右エ門】 ああただいま、いやあ腹が減った。早速いただくか。
――― 四人が食事をする。しばらくして
【お よ し】 あなた、工事の方は、いかがですか。
【源右エ門】 うん、いままでのところは順調だが、これからが問題だ。あの、こぶしが原がなあ・・。それより、およし。今日の味噌汁は、ちょっと甘いなあ。
【お よ し】 今、部落の婦人会で、減塩食品を勉強しているんですよ。しょっぱいなは、体に悪いんだってよ。
――――― 間
【源右エ門】 ところで、惣三郎殿は、いくつになられた。
【惣 三 郎】 二十と一でございます。
【源右エ門】 そうか、二十一か。そなたの父上に、わが子に学問を教えてくれと頼まれてから、早二年じゃのう。学問はもう十分じゃ。わしは、何も教えることがのうなった。
【惣 三 郎】 源右エ門殿に教えていただいたこの二年。私にとりましては、長いようで、短いものでございました。このご恩は、一生忘れません。ところで、源右エ門殿。私はこれから、米沢に参って、剣の修行をいたし、藩の仕官になりたいと思います。
【源右エ門】 うむ、それが良かろう。(やや間をおいて) ところでのう、惣三郎殿。そろそろ、身を固めてはどうかな。
―――― 惣三郎、驚いて顔を上げる。
【源右エ門】 いやいや、今すぐという訳ではない。結婚は、仕官になってからでも良いが、せめて、婚約だけでもしてはどうかなと思うのじゃが。そこでなんじゃが、ここにいるおせきは、どうかな。おせきの父は、最上家の侍大将だった方だ。おせきは、れっきとした武士の娘じゃ。おせきがまだ六つの頃、上杉家に向かう途中、病に倒れた。その後、おせきは、私が、父の名に恥じぬよう教育してきた。どうじゃな、惣三郎殿。
【惣 三 郎】 おせき様をですか。いや、もったいのうございます。源右エ門殿と奥様が、それこそ大事になさっているおせき様を、私のような者の妻にとは、身に余る幸せでございます。しかし、おせき様は、ご承知のことでしょうか。
【源右エ門】 おせき、お前はどうじゃ。
――― おせき 恥じらいながら
【お せ き】 惣三郎様は、旦那様が選んでくれた方でございます。惣三郎様さえよろしければ、私には、少しの不足もございません。惣三郎様、ふつつかものではございますが、何卒、お仕えさせていただきとうございます。 ――― おせき、惣三郎共に、深く頭を下げる。
【源右エ門】 わっはっはっは、いやアめでたい、めでたい。
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