「図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る」―。こんなスローガンに貫かれた小説『図書館戦争』シリーズ(有川浩著、全6巻)を久しぶりに本棚から引っ張り出した。花巻市長選による“休戦”期間を利用して、「図書館とは何か」という原点に立ち返ってみようと思ったのである。2006年2月から翌11月にかけて刊行されたこのシリーズは累計640万部のヒット作になり、今も読み継がれている。“文化”の存亡をかけた戦争の舞台こそが「図書館」であったことを改めてかみしめた。
「メディア良化法」―。昭和最後の1988年、メディアへの監視強化をねらったこんな法律が施行され、その執行機関である「良化特務機関」(メディア良化隊)による露骨な検閲がまかり通るようになった。こうした圧力に対抗するため、図書館側は「図書館の自由法」を制定。自主防衛組織としての「図書特殊部隊」を編成して、長期戦へと突入した。内乱、危機、革命…。そのタイトルを見ただけで、双方のし烈な戦いの様子が手に取るように伝わってくる。
一方の足元ではこの日(2月5日)、「小原(勝)」市政が正式に始動し、「イーハトーブ“図書館”戦争」の第2幕が切って落とされた。新花巻図書館の「駅前立地」という置き土産を残して事実上、“敵前逃亡”した上田東一前市長に代わって、着工から開館に向けた本番の市政運営はすべて小原市政の手に委ねられることになった。長い県職員(公務員)生活から今度は市民の直接選挙で選ばれた「首長」への180度の転身である。
“行政無謬(むびゅう)論”(行政は誤りを犯さない。犯してはならない)―。最近、こんな古色蒼然とした原則をタテに「駅前立地」を決定した前上田市政の行政判断を覆(くつがえ)すのは難しいのではないかという声が、一度はこの立地に反対した議員や一部市民の間でまことしやかにささやかれている。これに対し、「病院跡地」への立地を求めている市民からは「私たちの声を封印するねらいがあるのではないか 」という警戒心が出ている。装いを新にした“民意”づくりではないかという懸念である。
この無謬論は硬直した“役所”風土に根差した感覚だが、裏を返せば「仮にその判断に瑕疵(かし)があった場合は、直ちに修正しなければならない」ということも逆に暗示している。行政トップが持つ権限、いわゆる「政治決断」の行使がこれに当たる。「一国一城の主(あるじ)」として、その範を“独裁”という形で示してくれたのが、皮肉にも上田前市長だった。新図書館をめぐる動きを時系列的に整理すると以下の通りになる。
●「知の泉/豊かな時間(とき)/出会いの広場」(2012年=平成24年10月25日)~花巻図書館整備市民懇話会がこんなキャッチフレーズの提言書を市側に提出
●「花巻中央図書館基本計画」策定(2013年=平成25年5月28日)~上記提言書を受け、大石満雄市政が旧厚生病院跡地に子育て施設「こどもの城」との複合施設として立地を表明。議会側も承認
●上田東一市政誕生(2014年=平成26年2月5日)
●「花巻市立地適正化計画」策定(2016年=平成28年6月1日)~生涯学園都市会館(まなび学園)周辺への「図書館(複合)の移転・整備事業」を明記。立地変更の表向きの理由は旧厚生病院跡地でのヒ素など土壌汚染の発覚。土壌改良をすれば解決することだったが、上田市政は総合花巻病院の移転・新築に方向転換し、現在に至っている
●「新花巻図書館整備基本構想」策定(2017年=平成29年8月15日)~立地場所について、前記立地適正化計画の「まなび学園周辺」から「候補地を数箇所選定した上で、基本計画において定める」に変更。この立地候補地の複数化については明確な説明がないまま、推移した
●「新花巻図書館複合施設整備事業構想」公表(2020年=令和2年1月29日)~JR駅前の所有地(スポーツ用品店敷地)に50年間の定期借地権を設定。図書館と賃貸住宅、テナントを合築する複合施設案(いわゆる「住宅付き図書館」の駅前立地案)が突然浮上。同年11月12日、定期借地と住宅併設部分を撤回
●「新花巻図書館整備基本計画」策定(2025年=令和7年5月19日)~「駅前立地」を正式決定、議会側も承認。その理由については公共交通の要衝や高校生など若者世代の要望などが挙げられたが、駅橋上化(東西自由通路)との相乗効果など納得がいく説明は最後までなく、設計業務の委託契約へ
●小原勝市政誕生(2026年=令和8年2月5日)~上田前市長の引退に伴う市長選で他の2候補を押さえて、初当選
以上の経緯から分かるように、新図書館問題ひとつとってみてもこの12年間、首長の交代に伴って、議会の議決を経た案件さえも反故(ほご)にされてきた実態と、さらに同じ首長の下でも二転三転を繰り返してきた経緯が浮き彫りになってくる。“行政無謬論”などどこ吹く風。逆に言えば、「政治決断」という行政トップにだけ認められた“権力”行使には絶えず、“両刃の剣”が付いて回るということであろう。つまり、行き過ぎれば“独裁”を招き、正常に働けば行政の安定につながるという“反面教師”として…
当然のことながら、行政トップの暴走を防ぐために欠かせないのが、議会側との健全な「二元代表制」の維持と民主主義の根幹である「民意」の尊重である。私は拙著『「イーハトーブ“図書館”戦争」従軍記』の中で、「駅前立地」への民意形成が恣意(しい)的に作り上げられてきた経緯や二元代表制の崩壊過程、さらには市民参画手続きの形骸化などの実態をつぶさに明らかにしてきた。新体制下の小原市政が“駅前図書館”に至るこうした道筋をどのように検証し、最終的にどのような「政治決断」を下すのか―今後のかじ取りに注目が集まっている。
ところで、高市早苗総理は総務相時代の10年前、放送法(政治的公平性)を根拠に「電波停止命令」の発令をほのめかしたことがあった。そして今度はメディア良化法の上前をはねるような「スパイ防止法」を引っ提げ、天下分け目の勝負に打って出た。「高市」総選挙の投開票は3日後の2月8日。足元から列島全体へと“動乱”の兆しが高まりつつある。「権力―その条件と方法」…大学卒業時の“卒論”のタイトルがふいによみがえった。突然の記憶の回帰にびっくりした。
(写真は根強い人気がある『図書館戦争』シリーズ)
≪追記≫~中国新聞に拙著の書評が掲載(コメント欄に記事)
中国新聞(本社・広島市)の1月29日付「文化欄」に拙著の書評が掲載された。同市でも市立中央図書館の移転・新築をめぐって「原爆ドームがある平和記念公園近くの現在地かJR広島駅前か」―という民意を二分する“立地”論争が起こり、「駅前立地」に反対する署名が1万7千筆以上も集まった。黒塗り文書など当市と瓜二つの経緯については本書でも言及したが、結局、駅前の商業施設への移転が強行された。オープンは令和8年度当初とされている。
★オンライン署名のお願い★
「宮沢賢治の里にふさわしい新花巻図書館を次世代に」―。「病院跡地」への立地を求める市民運動グループは七夕の(昨年)7月7日から、全世界に向けたオンライン署名をスタートさせた。イーハトーブ図書館をつくる会の瀧成子代表は「私たちは諦めない。孫やひ孫の代まで誇れる図書館を実現したい。駅前の狭いスペースに図書館を押し込んではならない。賢治の銀河宇宙の果てまで夢を広げたい」とこう呼びかけている。
「わたくしといふ現象は/仮定された有機交流電燈の/ひとつの青い照明です/(あらゆる透明な幽霊の複合体)」(『春と修羅』序)―。賢治はこんな謎めいた言葉を残しています。生きとし生ける者の平等の危機や足元に忍び寄る地球温暖化、少子高齢化など地球全体の困難に立ち向かうためのヒントがこの言葉には秘められていると思います。賢治はこんなメッセージも伝え残しています。「正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである。われらは世界のまことの幸福を索(たず)ねよう、求道すでに道である」(『農民芸術概論綱要』)ー。考え続け、問い続けることの大切さを訴えた言葉です。
私たちはそんな賢治を“実験”したいと考えています。みなさん、振って署名にご協力ください。海外に住む賢治ファンの方々への拡散もどうぞ、よろしくお願い申し上げます。
●オンライン署名の入り口は以下から
●新花巻図書館についての詳しい経過や情報は下記へ
・署名実行委員会ホームページ「新花巻図書館を宮沢賢治ゆかりの病院跡地に!]
https://hanamakibiblio.jimdosite.com/
・ヒカリノミチ通信(増子義久) https://samidare.jp/masuko/
・おいものブログ~カテゴリー「夢の新花巻図書館を目指して」 https://oimonosenaka.seesaa.net/




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