最後に紹介するのは斎藤順一さんの「待つ時間」。舞台は羽前成田駅のホームのベンチ。防雪林の樹間から差し込んでくる夕陽に照らしだされる女性。手にはスマートフォンが握られている。
この作品を熱心にご覧になっていた方に、この作品にどんなタイトルを付けますか?と尋ねた処、「『黒皮の手帳』ならぬ『黒い帽子の女』かな」と笑いながら答えてくれました。この写真に不思議な奥深さを感じさせるのには、ミステリアスな女性の存在が大きいと思うが、同時にホームという空間の特異性も重要に思えるのだ。
この作品を見た時、ホームには待合室とは違った意味を持つ場所なのではないかと思えた。ホームにたたずむ女性はここにたどり着くまでに、どのような人生を歩んできたのだろうか。そして今、彼女は何を思い、どこに行こうとしているのだろうか。ホームには過去と現在、そして未来への扉があるのかもしれない。
中島みゆきの「ホームにて」という歌がある。ふる里へ向かう列車に乗ることを切望しながらも逡巡する心情を綴った歌だ。今は生きづらさを抱え、心のふる里を求めて旅する人も多いだろう。この駅のホームが、そんな人たちに生きる希望を与えてくれる場所となることを願っている。
【おらだの会】これまで掲載してきた作品紹介記事は、当会の勝手な感想であります。何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。なお「7人展Ⅸ」は8月3日(日)が最終日となります。開場時間等はこちらをご確認ください。
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