「市側は新図書館の建設候補地について、一貫して『駅前立地』を主張してきたが、肝心の足元の地元住民の動向がさっぱり、伝わってこない。これまでの経過をどう説明してきたのか」―。花巻市議会3月定例会の一般質問初日の3日、本舘憲一議員(はなまき市民クラブ)はこう切り込んだ。しばらく間をおいた末、菅野圭生涯学習部長はシドロモドロに「とくに駅前に特定した説明会などは実施していない」と答弁。これを引き取る形で、上田東一市長が「市民全体を対象にした説明会が複数回開かれており、駅前の住民もその場で発言する機会はあったはずだ」と苦しい答弁に終始した。
この日の質疑応答ではあの「住宅付き図書館」の駅前立地構想(いわゆる“上田私案”)がまるで亡霊のように姿を現した。本舘議員は行政開示文書で明らかになったイメージ図を掲げ、こう迫った。「駅橋上化(東西自由通路)と図書館とは実はワンセットの事業ではなかったのか。図書館の駅前立地は市の建設部と図書館を担当する生涯学習部、JR東日本の三者で合意された既定路線ではなかったのか」―
上田市長は当初、このワンセット論に対し「断じて、そんなことはない」と強弁したが、その直後今度は「令和2年の段階まではある意味で、ワンセットだったと言える。しかしその後、二つの事業が単独でも国の補助を受けられるようになり、別々の事業として位置付けることになった。現に橋上化はいま、実施設計の段階にある」と前言を翻(ひるがえ)す答弁を繰り返した。
「令和2年」―。この年こそが「新花巻図書館」迷走劇の始まりだった。2020(令和2)年1月29日、“上田私案”が市民や議会の頭越しに天から舞い降りてきた。上田市長はこうした過去の経緯を踏まえたうえで、こんな謎めいた発言を口にした。「仮に立地場所が病院跡地になった場合、JR側から約束違反ではないかと責任を問われる可能性はある。しかし、市としては責任の取りようがない。われわれ行政はそれほど愚かではない」―。私はこの発言の背後にある種のレトリックを嗅ぎ取っていた。「(JRとの)約束を反故(ほご)にするわけがない」ーという意味での”詭弁”(きべん)を…
2番手の伊藤盛幸議員(緑の風)は建設場所の意見集約をするための対話型「市民会議」のあり方について、こうただした。「無作為抽出した3,500人の中から参加希望のあった75人で構成したということだが、4回の会議に一度も出席しなかった人はいたのか。また10項目の設問のうち、8項目については駅前立地の選択が多かったと報告された。こうした手法は多数決の原理につながり、民意がきちんと反映されているかどうか疑問だ」―
これに対し、菅野部長は「色々な事情で6人が全4回とも欠席した。設問は多方面にわたっており、単なる多数決とは違うと思う」と答えた。伊藤議員が激した調子で口にした。「(「住宅付き図書館」の駅前立地という)市民や議会不在の前例があるから、念にな念を入れて聞いている」―。またぞろ亡霊がむっくり、目を覚ましたようだった。
本舘議員の質問が終わり、次の伊藤議員が登壇した際、菅野部長が「(本舘議員の質問に)補足説明をしたい」と言って、手を挙げた。「駅前の住民を対象とした説明会を実施していないのはまだ、立地場所が最終的に決まっていない段階なので、その必要はないと判断した。病院跡地周辺の住民に対しても同じだ」―。冗談を言ってもらっては困る。場所も建物の説明も一切ないないまま、図書館の「駅前」立地を強行しようとしたのは他ならない上田市長その人ではなかったのか。
その場を取り繕(つくろ)おうとすればするほど「語る」に落ちたり、「藪(やぶ)」をつついて、蛇が飛び出したりと…この攻防戦の行司軍配は議員側に挙がったように見えた。一方、上田市長は1万筆を超える病院跡地への立地署名について、「精査した結果、自筆サインをしたのは約6,000人と聞いている」とその数に疑義を呈した。こっちは「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」という諺(ことわざ)がピッタリか。この日、傍聴席には40人以上の市民が詰めかけ、質疑の成り行きを見守った。
(写真は「ワンセット」のイメージ図を掲げて、質問する本舘議員=花巻市議会議場で。インターネット中継の画面から)
《追記》~ブログ読者を名乗る方から、以下のようなコメントが寄せられた
ブログ記事から素直に読み取れること
1.いわゆる「ワンセット論」についてはこれまでの答弁を覆した。補助事業云々の理屈は、市の組織内部のローカルな話。
2.新図書館花巻駅前立地で利益を受けるはずの地域住民よりも花巻駅の持ち主であるJR東日本の利益を重視していたらしいこと。駅前市民の意見聴取はなく、JR東日本と何度も議論や交渉を重ねていたこと。
3.無作為抽出された3,500人の意見を聞いたならば、統計学的な意味は十分にあったはずだが、75人だかそれ以下の出席者の意見では、その極めて小集団の意見でしかなく、花巻市民の代表的な意見とはなり得ないこと。
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