目に余る“賢治利用”…ふるさと納税90億円の舞台裏!!??

  • 目に余る“賢治利用”…ふるさと納税90億円の舞台裏!!??

 

 「一体この物語は、あんまり哀れ過ぎるのだ。もうこのあとはやめにしよう。とにかく豚はすぐあとで、からだを八つに分解されて、厩舎(きゅうしゃ)のうしろに積みあげられた」―。宮沢賢治の童話『フランドン農学校の豚』の最終節はこんなセリフで閉じられている。「家畜撲殺同意調印法」が布告され、校長は法律に基づいて豚に対し、死亡承諾書への捺印をせまる。恐怖心にかられた豚はいったんは拒絶するが、結局は同意させられてしまう。賢治の教え子で戦後、「花巻賢治子供の会」を立ち上げた照井謹二郎さん(故人)は当時、その現場に立ち会った。その時の様子を「ピッグがピッグを殺した」というエピソードを交え、私に以下のように打ち明けてくれた。

 

 「真冬にしてはおだやかな日だった。雪におおわれた校庭に豚が一匹連れ出された。前足の一本がロープで縛られ、そのロープの端はテニスコートの支柱にしっかりと結びつけられた。校長がマサカリで脳天を一撃。豚はあっけなく死んでしまった。解体された豚は2日ばかり雪の中に埋められ、その後、収穫祝いの豚汁として職員と生徒にふるまわれた。その時の校長のあだ名がピッグだった」―

 

 イーハトーブ花巻応援寄付金(ふるさと納税)の人気商品のひとつがブランド豚「白金豚」である。賢治の同書の中にこんな記述がある。「水やスリッパや藁(わら)をたべて、それをいちばん上等な、脂肪や肉にこしらえる。豚のからだはたとえば生きた一つの触媒だ。白金と同じことなのだ。無機体では白金だし有機体では豚なのだ」―。銘柄名はこの文章に由来する。賢治が「あんまり哀れ過ぎる」と嘆いたその「白金豚」はいまや、文字通り、”カネノナルキ”としてもてはやされている。

 

 食肉のもうひとつの人気商品はもちろん「牛」である。当市の令和5年度のふるさと納税額は約90億3千万円に達している。このドル箱を底支えしているのが「牛タン」だが、新銘柄「花巻黒ぶだう牛」がここ数年人気を増している。ぶどうの搾(しぼ)りかすを与えて、飼育。以前は「エーデルワインビーフ」として売り出されたが、その後、名前が変わった。ふるさとチョイスの案内にはこう書かれている。

 

 「花巻市御田屋町の旧菊池捍邸。『花巻黒ぶだう牛』の名称は、この建物が舞台とされる宮沢賢治の寓話『黒ぶだう』からいただいたものです」―。現存するこの邸宅は大正15年の建築とされ、昨年8月、文化庁の「国登録有形文化財」の指定を受けた。その後、「賢治ゆかりの」という付加価値が付けられた途端、返礼品の上位にノミネートされるようになった。“賢治効果”が一目瞭然であるが、なりふり構わない“錬金術”には怖気(おぞけ)さえ覚えてしまう。

 

 「雨ニモマケズ」体験セット(一日に玄米四合と味噌ト少シノ野菜ヲタベ…)から今度は「はなまき星めぐりコイン」へー。臨時の共同記者会見(7月23日)まで開いて、この新しい「旅先納税」を披露した際、上田東一市長の顔には満面の笑みがあふれていた。一方の私は銀河宇宙の星たちが「コイン」(金貨)に変身させられた光景を目の当たりにしながら、5年前の“エアガン”騒動を思い出した。まさに“悪夢”の光景だった。

 

 2019年8月、返礼品にプラスチック製の弾(たま)を圧縮した空気で飛ばす「エアガン」をリストに加えた。問い合わせが殺到し、わずか1時間足らずで受付を終了した。この話題がテレビのワイドショーやメディア報じられた結果、事態は一変した。「アメリカでは銃乱射事件が相次いでおり,嬉々(きき)として返礼品に加えるのは無神経ではないか」…。1週間後、上田市長が謝罪文をHPに掲載し、幕引きを図った。賢治が“夢の国”と名づけた「イーハトーブ花巻」における“税金分捕り合戦”の舞台裏のほんのひとこまである。

 

 

 

 

(写真は「黒ぶだう牛」フェアを告知するチラシ=インターネット上の公開の写真から)

2024.07.27:masuko:[ヒカリノミチ通信について]

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