その「悪夢」は、私が“1・29事変”と名づける2020(令和2)年1月29日にさかのぼる。この日、いわゆる「住宅付き図書館」の駅前立地(「新花巻図書館複合施設整備事業」)という奇妙奇天烈な構想が何の前触れもなく、いきなり天から降ってきた。まさに青天の霹靂…“上田私案”と私が呼ぶゆえんである。その後、住宅併設案は撤回されたが、JR花巻駅前のスポ-ツ店用地を立地の第1候補地にする方針は変わらず、土地取得交渉も含めたその是非を問う市民説明会が10月11日から市内17か所で始まり、22歳以下を対象にしたオンライン説明会(27日)を残すだけになった。
「JR所有の立地場所を譲ってもらうため、その“お墨付き”を得るための説明会ではないのか。市民はそのアリバイづくりにただ利用されているのではないか」―。東和図書館で22日に開催された説明会の席上、ある青年が激した口調でまくしたて、こう続けた。「私たち若い世代としてはむしろ、駅前立地を希望する。しかし、その進め方がすっきりしない。裏に何かあるような気がして…」。この日、3回目の参加となった私は「大方の市民の反応は駅前よりも旧花巻病院跡地(花巻城址)への立地を望む声が多いように思う。行政側の受け止め方はどうか」とただした。
答弁に立った佐々木正晴・新花巻図書館計画室長はしどろもどろしながら、こう答えた。「まだ、最終的な集計ができていないので今の段階では申し上げられない。ただ、印象としては(病院跡地が)『多数』だったと思う。今後、各種団体への説明会も残されており、成り行きを見守りたい」―
旧花巻病院の病棟が解体された結果、約100年ぶりにかつての花巻城のおもかげが目の前に現出した。こうした立地環境の変化が市民が描く図書館像に大きな影響を与えたことはまちがいない。しかし、私は図書館の駅前立地にからんだ“闇の構図”に市民がうっすらと気が付き始めたのではないかとも考える。今から約3年前の2019年12月、首相官邸で「第21回 まち・ひと・しごと創生会議」が開かれた。席上、紫波町で「民間主導の地域経営・公民連携事業」―「オガ-ル」を展開する同社社長の岡崎正信さんがひとつの事例発表をした。
「JR花巻駅前のJR用地を活用した新図書館整備事業。図書館と民間賃貸住宅を合築し、図書館に住むという新しいライフスタイルを花巻市民に提供する…」―。まるで「上田私案」を前倒ししたような突然の公表に「市民や議会軽視もはなはだしい」と批判が挙がった。上田東一市長は何やら意味深めいた口調で、こう言ってのけた。「岡崎さんが創生会議の場で花巻の事例について説明したことは知っていた。しかし、個人の立場での発表であり、市として関与したわけではない。ただ今後、国の有利な融資を受けるためにも花巻の考えを伝えてくれたのは良かったと思っている。こうした大きな事業を進めるためにはこの種の同時並行的な手続きが必須である」―
その後、急浮上したJR花巻駅の橋上化と図書館の駅前立地も実は「ワンセットではないか」という疑念が市民の間に広がりつつある。「上田市長はなぜ、駅前立地にこれほどこだわるのか。橋上化の見返りに図書館用地の取得を可能にするというような“密約”でもあるのではないか」。こんな素朴な質問が説明会の席上でも相次いだ。ひょっとして、これがあの上田流”裏の手”(つまりは「同時並行的な手続き」)なのかもしれないと、そんな気にもさせられてしまう。上田市長が「この二つの案件は別物だ」と強調すればするほど、市民の疑念は深まるばかりである。
「むしろ、花巻駅の橋上化と図書館の駅前立地とがセットである方が活性化の観点からは相乗効果が期待できるのではないか。なぜ、そうはっきりと言えないのか」―。東和会場で障害者団体のある男性はこう発言した。市民感情からすれば、こっちの方がよっほど正直な気持ちである。「別物」発言は逆に市民の間に”あらぬ疑念”を増幅させているだけにしか見えない。
私は市民説明会の初日(10月11日、笹間振興センタ-)、立地場所に関連して上田市長宛てに公開質問状を提出(同日付当ブログ参照)し、26日付で回答を得た。以下に全文を掲載する。常日頃、「市民の意向を最大限に尊重する」と話している上田市長の”政治決断“に注目したい。
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2022年10月11日付でいただいたご意見に回答いたします。市では、新しい図書館の基本計画を策定するため、利用者団体等の代表も含め専門的な立場から基本計画の試案を検討する会議として、令和3年度に新花巻図書館整備基本計画試案検討会議を設置し、図書館のサ-ビスや機能について具体的に検討をしてきました。今年度は、この検討会議において建設場所の議論を行っており、具体的な候補地としてJR花巻駅前のスポ-ツ用品店敷地と旧総合花巻病院跡地の場所に意見が集約されてきたところであり、検討会議では花巻駅前のスポ-ツ用品店敷地を希望する、またはどちらかというと希望するとの意見が多かったところです。
駅前のスポ-ツ用品店の場所はJR東日本が所有する土地であり、JR東日本は原則土地を売買しない方針とのことですが、市が図書館用地として市の活性化のために必要ということであれば、土地売買の協議に応じるとの意向を示しています。駅前のスポ-ツ用品店敷地に図書館を整備する案をこれ以上検討するためには、面積や価格などについてJR東日本と具体的な条件を交渉し、その結果、JR東日本と合意が得られる条件が当市にとって受け入れ可能な条件であるか見極める必要があります。このことから、これまで検討会議において検討してきた図書館のサ-ビスや機能について、JR東日本と具体的な協議を始めたいということを今回説明しているものです。
市民説明会においては、図書館の建設場所について様々な意見があり、旧総合花巻病院跡地の場所がいいとの意見もありますが、駅前のスポ-ツ用品店の場所がいいとの意見もありますので、それらの意見を含め市民の皆様からお話を聞きながら、市民の多くに利用される新花巻図書館の整備に向けて検討を進めたいと考えております。
花巻城址は本市にとって重要な場所だと考えております。その上で、花巻城は廃城となってから150年の歴史の中で様々な課題が出てきております。そのような状況で今何ができるかを考えるとともに、将来に委ねるものは委ねるということも必要になっているものと考えます。堀跡については、花巻城跡調査保存検討委員会の皆様に現地を視察いただいた後も解体工事が進む中で、北側の一部を除いた部分については当初考えられていた程度より相当程度がすでに破壊されていると聞いております。そのような状況について、花巻城跡調査保存検討委員会のさらなるご意見を伺いながら、現時点で可能な限り保存すべきと考えているところです。
旧花巻総合花巻病院跡地自体は堀跡には面しているものの、花巻城の外ではありますが、まなび学園を含め市街地にある土地の活用も考慮に入れながら、有効に活用すべき貴重な場所だと考えており、花巻城の堀跡に面していること、また宮沢賢治ゆかりの花巻農学校があった場所だということも踏まえ、仮に図書館建設場所としての活用とならない場合にあっても、それにふさわしい活用について市民の意見を聞いて検討していく必要があると考えております。なお、図書館建設場所についての市の考えについては上記に記載しているほか、増子様も複数回参加くださった市民説明会でご説明した通りですので、ご参考にしてくださいますようにお願いいたします。
2022年10月26日
花巻市長 上田 東一
(写真は“上田私案”の原案とされる事例発表のパワ-ポイント=総務省のHPから)
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