「Mr.PO」の思想と行動(10=完)…結局は「権力と無駄」との相関関係を証明しただけの「終わった人」~ところで、「まん福」跡地に新図書館ってのは!?

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《前 編》

 

 ののしり合いに終始した花巻市議会の「6月(バトル)定例会」は7月1日、15日間にわたった会期の幕を閉じた。最終日のこの日、久しぶりに傍聴席から「兵(つわもの)どもが夢の跡」と化した議場を見下ろしてみた。一方の主役…「Mr.PO」(上田東一市長)の疲れ切った表情が目に飛び込んできた。心底、思った。「この人はもう、終わった人だな」と…。その一方で、議会制民主主義(二元代表制)の崩壊の危機をすんでのところで回避した一部を除いた議員諸賢の奮闘には、これまでそうではなかった分の“名誉回復”を含めて拍手を送りたいと思った。

 

 「当市はもう、JRから信用されていない。話し合いができる状況ではない」―。一般質問のやり取りの中で、顔を引きつらせながらヒステリックに叫ぶMr.POの姿に一瞬、その意味を解しかねた。自ら手掛けた2大プロジェクト―「新花巻図書館」と「JR花巻駅の東西自由通路(駅橋上化)」の整備計画がともに議会側の反対でとん挫したことに対する“逆恨み”が根底にあるようだった。「当り前じゃないですか。こっちは相手側とコンセンサスを得ようと頑張っている。それが(議会側の)反対でダメになる。これじゃ、前に進めない」…。いやはや、と思った。「このご仁は首長の立場をどこかの企業のトップと勘違いしているのではないか。いや、企業にもちゃんと、株主総会というものはある」

 

 「1・29」事変と私が名づけたあの“青天の霹靂”(へきれき)をもうすっかり、忘れてしまっているようである。あるいは忘れたふりをしているのかもしれない。2020年1月29日、ある昵懇(じっこん)のコンサルタントと密室で練り上げた「新花巻図書館複合施設整備事業構想」なる代物が突然、天から降ってきた。いまでは“上田私案”と呼び慣らわされる「住宅付き図書館」の駅前立地構想で、「Mr.PO」vs「市議会」の“イ-ハト-ブ戦争”勃発の契機になった事件である。「住宅付き」部分の白紙撤回、駅橋上化をめぐる集団“やらせ要請”などの経緯については当ブログに収録した「イ-ハト-ブ歌舞伎『青天の霹靂』」もう一度お読みいただきたい。

 

 「間接民主主義は憲法で保障されている、大切な議会運営の基本」―。一般質問最終日の6月23日、Mr.POに対する議会側の“引導渡し”かと思いきや、発言の主は何とそのご本人だったというブラックユ-モアも顔負けのお粗末が演じられた。耳を疑うどころか、耳朶(じだ)が壊れたのではないとさえ思った。そういえば、このご仁の発言は「1・29」事変で議会側にケンカを売ったあたりから、まるで思考回路がメルトダウン(炉心溶融)したみたいに迷走状態を繰り返してきた。「憲法で保障?…。それを踏みにじってきたのは一体、誰だったのか。あんたにだけは言ってほしくはない」―。インタ-ネットの議会中継でこの茶番を見せつけられた私は思わず、パソコンに向かって毒づいていた。

 

 

《後 編》

 

 最終日の本会議終了後、急きょ議員説明会があることを知った。議題は「旧料亭・まん福」の経緯について―。現職市議時代からの懸案で、その後の経過が気になっていたので傍聴した。この老舗料亭は1935(昭和10年)に開業され、戦後長きにわたって、花柳界の隆盛を支えてきた。64畳にも及ぶ大広間の天井には樹齢2千年を超すとも言われる屋久杉の樹皮が使われ、床の間や柱には黒檀(こくたん)や紫檀(したん)などの銘木がふんだんに施されていた。ここで結婚式を挙げたという市民も多く、一方で“料亭政治”の舞台としても利用されるなど当市のシンボル的な存在だった。しかし、近年の料亭離れで経営が悪化。市側が8年前、土地代金として5800万円を支払い、建物は無償で譲り受けた。

 

 この日の説明会で市側は「建物や跡地の利活用について、民間資金の導入などを検討してきたが、条件が見合う引き合いがなかった」として、この種の市場調査は今後、行わない方針を固め、今年12月末完了をメドに解体撤去することになった。また、旧料亭内あった花巻ゆかりの画家の作品など65点は市博物館へ収蔵し、床の間や石灯篭など再利用が可能な工芸品15点は公売に付すことになった。今回の建物撤去に伴い、更地になる総面積はざっと、3840平方㍍にのぼる。〝塩漬け“状態になっている旧新興製作所跡地(花巻城址)を除き、市の中心部にこれだけ広大な空き地は他に見当たらない。つけ加えると、私自身は花巻城址の「旧東公園」跡地こそが、新図書館の立地にふさわしいと事あるごとに訴えてきたが、Mr.POの”失政”のあおりを受けて、日の目を見ることなく現在に至っている。

 

 「開けてびっくり、玉手箱」―。説明を聞いているうちにこの高台の一等地こそが新花巻図書館の立地最適地ではないかとふと、ひらめいた。Mr.POが全国で3番目と胸を張る「花巻市立地適正化計画」の都市機能誘導区域に位置するこの地以外にどこがあろうか…。背中を押されるような気持で、説明会の帰途、久しぶりに「旧まん福」界隈(上町、吹張町、鍛治町、末広町など)を散策してみた。最近まで近くにあったはずの岩手銀行鍛治町支店の建物はすでに撤去され、見通しがずいぶんと良くなっている。隣接する高台にまだ残る旧料亭の古風な建物が風雅なたたずまいをあたりに漂わせていた。小学生の時、友達と誘い合って通った銭湯「末広湯」はレンガづくりの煙突や男湯と女湯の文字がかすれながらも当時のまま残っていた。東北本線のガ-ドを汽車がガタゴト音をたてながら通り過ぎた。往時の商店街の賑わいが目の前に去来するような、そんな錯覚に陥った。

 

 「市有地だから、JRなど厄介な相手とも交渉しなくてすむ。Mr.POがお題目みたいに唱える中心市街地活性化にうってつけの場所ではないか。(新図書館の)建設予定地の選定が難航する中、この地こそが天からの授かりもの。真の意味の〝青天の霹靂“とはこのことではないか」―。ブラブラ歩き続けているうちに、夢がどんどんと広がった。私たちはどうしてこんなに回り道をしてしまったのか…

 

 封切直後に観た映画『終わった人』(中田秀夫監督)のシ-ンが突然、二重写しのようにまぶたによみがえった。原作は作家、内館牧子の同名の長編小説。岩手日報など地方紙8紙に2014年6月9日から連載。加筆を経て2015年9月17日に講談社から刊行。仕事一筋で定年を迎えた東大卒のエリ-ト銀行マンの定年後の悲哀を描いた傑作である。2017年にラジオドラマ化、2018年に映画化された。主人公の定年後の人生行路はほぼ、Mr.POの首長時期と重なっている。「終わった人」には去ってもらうしかないが、「終わり」は「始まり」のゴ-サインでもある。この日の本会議で長年の懸案だった「花巻市民参画条例」の制定を求める陳情が全会一致で可決された。「イ-ハ-ト-ブはなまき」の潮目は確実に変わりつつある。

 

 

 

 

(写真は映画化された「終わった人」のポスタ-=インタ-ネット上に公開の写真から)

 

 

<注>~コメント欄に旧料亭「まん福」の近影写真を掲載

 

 

 

 

《追記》~「権力と無駄は相関する」

 

 フランス文学者で思想家の内田樹さんがこんなタイトルの論考を『週刊金曜日』(7月2日号)に掲載している。まさに、「Mr.PO」の“思想と行動”を見透かすような、ドンピシャの内容にこっちがびっくり。以下にその要旨を転載させていただく。たとえば、この命題の典型例と言えるのが「住宅付き図書館」の駅前立地構想。WS(ワークショップ)におけるアンケート調査で、この構想に賛成した人はゼロ。こうした案件で賛否のいずれかがゼロというのは統計学上、あり得ないと言われる。ということは、そもそもこの構想自体が政策上の要件を満たしていなという意味で、「権力と無駄」の相関を見事に浮き彫りにした好例である。

 

 

 「組織がほんとうに上意下達的であるどうかを簡単に確かめる方法がある。それは『無意味なタスク』(仕事や作業などを指すビジネス用語)を下僚に命じることである。完全にトップダウンの組織であれば、その『無意味なタスク』は遅滞なく末端まで行き届く。だから、『無意味なタスク』を発令しておいて、それに黙々と従う部下を重用し、『これ、意味ないですよ』と突き返してくる部下を排除するという人事考課を10年ほど続けていれば、理想的にトップダウンな組織が完成する」

 

 「どのような有害無益な指示でも、誰一人疑義を呈したり、実行を止めようとする者がいない組織が出来上がる。すばらしく効率的な組織ではあるけれども、『無意味なタスク』について『これをやるのは時間と予算の無駄です』と言ってくれる人間がいなくなるので、結果的にその組織がする仕事のうち『ブルシット・ジョブ』(どうでもいい仕事)が占める割合は増え続ける」

 

 「自分がほんとうに下僚から畏怖されているかどうか知りたがる人間は(無意識的にだが)『無意味なタスク』を発令する傾向がある。自分が権力者として畏怖されていることを確認するためには、誰の利益にもならない『壮大な無駄』を命じて、それが実現するのを見ることだからである。それとは逆に、ボトムアップでものごとを決める民主的な組織では、合意形成には時間がかかる。それぞれ一家言ある人たちが自説を述べるので、なかなか話がまとまらない。その代わり、『誰の目にも無意味とわかるタスク』が採択されるリスクはきわめて低い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021.07.01:masuko:[ヒカリノミチ通信について]

「まん福」、解体撤去へ

  • 「まん福」、解体撤去へ

「芸者さんが宴会が始まる前に慌てて、口紅を買いに来たりしてね」と近くの化粧品店の女主人。いろんな思い出を刻んだ老舗料亭の消滅を惜しむ声が。「昔の賑わいをもう一度」という声も聞かれる=今年中には姿を消すことになった旧料亭「まん福」(7月1日、花巻市吹張町で)

2021.07.01:[編集/削除]

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