ユヴァル・ハラリからのメッセ-ジ…その1

  • ユヴァル・ハラリからのメッセ-ジ…その1

 

 「災害は忘れたころにやって来る」という。その“忘れ時”について、私たち日本人は「10年ひと昔」などという絶妙な表現を身に付けている。「苦あれば楽あり」という独特の無常感を背負っているせいかもしれない。今年は東日本大震災からちょうど10年目の節目に当たる。この10倍の100年前、世界人口の4分の1に相当する5億人が感染し、5千万人が死亡したとされるパンデミック(大流行)が発生した。インフルエンザウイルスが引き起こした、いわゆる“スペイン風邪”である。パンデミックはこのように人間が過去を忘れ去る時間軸にまるで照準を定めるかのように突然、襲いかかってくる。今回もそんな「思考停止」状態のさ中、しかもわずか10年前の「3・11」の記憶をわきに葬ったまま、「復興」五輪に浮かれていた「ニッポン」を直撃した。

 

 世界的ベストセラ―『サピエンス全史』や『ホモ・デウス』、『21 Lessonsなどの著作で知られるイスラエル出身の歴史学者で哲学者のユバル・ノア・ハラリ(44)は3月15日付の米タイム誌に「人類はコロナウイルスといかに闘うべきか―今こそ、グロ-バルな信頼と団結を」…さらにその5日後には英フィナンシャルタイムス紙に「新型コロナウイルス後の世界―この嵐もやがて去る。だが今行う選択が、長年に及ぶ変化を私たちの生活にもたらしうる」と題する論考を寄稿、「Web河出」で訳出されている。この二つの記事の中から心に引っ掛かった部分を2回にわけて転載する。

 

 読解にかなりのエネルギ-を要する文章からの抜き書きなので、前後の文脈が飛躍している感があるが、興味のある方はぜひ原文をお読みいただきたい。それゆえ、この引用は私自身が「コロナ」後に備えた備忘録あるいは処方箋…ひと言でいえば、残された「生」を生きるための“覚え書き”(メモ)といったものである(1回目は米タイムス誌より)

 

 

 

 

多くの人が新型コロナウイルスの大流行をグロ-バル化のせいにし、この種の感染爆発が再び起こるのを防ぐためには、脱グロ-バル化するしかないと言う。壁を築き、移動を制限し、貿易を減らせ、と。だが、感染症を封じ込めるのに短期の隔離は不可欠だとはいえ、長期の孤立主義政策は経済の崩壊につながるだけで、真の感染症対策にはならない。むしろ、その正反対だ。感染症の大流行への本当の対抗手段は、分離ではなく協力なのだ。

 

●1918年(スペイン風邪の発生)以来の100年間に、人口の増加と交通の発達が相まって、人類は感染症に対してなおさら脆弱になった。中世のフィレンツェと比べると、東京やメキシコシティのような現代の大都市は、病原体にとってははるかに獲物が豊富だし、グロ-バルな交通ネットワ-クは今日、1918年当時よりもずっと高速化している。ウイルスは、24時間もかからないでパリから東京やメキシコシティまで行き着ける。したがって私たちは、致死性の疫病(えきびょう)が次から次へと発生する感染地獄に身を置くことを覚悟しておくべきだった。

 

●(一方で)20世紀には、世界中の科学者や医師や看護師が情報を共有し、力を合わせることで、病気の流行の背後にあるメカニズムと、大流行を阻止する手段の両方を首尾良く突き止めた。進化論は、新しい病気が発生したり、昔からある病気が毒性を増したりする理由や仕組みを明らかにした。遺伝学のおかげで、現代の科学者たちは病原体自体の「取扱説明書」を調べることができるようになった。中世の人々が、黒死病の原因をついに発見できなかったのに対して、科学者たちはわずか2週間で新型コロナウイルスを見つけ、ゲノムの配列解析を行ない、感染者を確認する、信頼性の高い検査を開発することができた。

 

●(他方)たった1人の人間でも、何兆ものウイルス粒子を体内に抱えている場合があり、それらが絶えず自己複製するので、感染者の1人ひとりが、人間にもっと適応する何兆回もの新たな機会をウイルスに与えることになる。個々のウイルス保有者は、何兆枚もの宝くじの券をウイルスに提供する発券機のようなもので、ウイルスは繁栄するためには当たりくじを1枚引くだけでいい。

 

●ウイルスとの戦いでは、人類は境界を厳重に警備する必要がある。だが、それは国どうしの境界ではない。そうではなくて、人間の世界とウイルスの領域との境界を守る必要があるのだ。地球という惑星には、無数のウイルスがひしめいており、遺伝子変異のせいで、新しいウイルスがひっきりなしに誕生している。このウイルスの領域と人間の世界を隔てている境界線は、ありとあらゆる人間の体内を通っている。もし危険なウイルスが地球上のどこであれ、この境界をどうにかして通り抜けたら、ヒトという種(しゅ)全体が危険にさらされる。

 

●今日、人類が深刻な危機に直面しているのは、新型コロナウイルスのせいばかりではなく、人間どうしの信頼の欠如のせいでもある。感染症を打ち負かすためには、人々は科学の専門家を信頼し、国民は公的機関を信頼し、各国は互いを信頼する必要がある。この数年間、無責任な政治家たちが、科学や公的機関や国際協力に対する信頼を、故意に損なってきた。その結果、今や私たちは、協調的でグロ-バルな対応を奨励し、組織し、資金を出すグロ-バルな指導者が不在の状態で、今回の危機に直面している。

 

今回の危機の現段階では、決定的な戦いは人類そのものの中で起こる。もしこの感染症の大流行が人間の間の不和と不信を募らせるなら、それはこのウイルスにとって最大の勝利となるだろう。人間どうしが争えば、ウイルスは倍増する。対照的に、もしこの大流行からより緊密な国際協力が生じれば、それは新型コロナウイルスに対する勝利だけではなく、将来現れるあらゆる病原体に対しての勝利ともなることだろう。

 

 

(写真は現代の〝知の巨人“と呼ばれるハラリ=インタ-ネットに公開の写真から)

 

 

《追記》~「新型コロナ/ここが政治の分かれ道」

 

 ユヴァル・ノア・ハラリが朝日新聞のインタビューに応じ、最後をこう結んでいる。「我々はそれを防ぐことができます。この危機のさなか、憎しみより連帯を示すのです。強欲に金もうけをするのではなく、寛大に人を助ける。陰謀論を信じ込むのではなく、科学や責任あるメディアへの信頼を高める。それが実現できれば、危機を乗り越えられるだけでなく、その後の世界をよりよいものにすることができるでしょう。我々はいま、その分岐点の手前に立っているのです」(4月15日付「オピニオン」欄)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020.04.14:masuko:[ヒカリノミチ通信について]

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