「新図書館」構想⑭ 上田流「クソミソ」思考の功罪…無理が通れば、道理が引っ込む

  • 「新図書館」構想⑭ 上田流「クソミソ」思考の功罪…無理が通れば、道理が引っ込む

 

 「全国で3番目」が逆に仇(あだ)になったのではないのか―。上田(東一)「ワンマン」市政の余りにもひどい“暴走”ぶりにため息が絶えない今日この頃である。花巻市は平成28年6月、都市再生特別措置法の一部改正(平成26年8月)で導入された「立地適正化計画」を策定した。現在、全国自治体の9割以上の248市町が策定する中で「全国で3番目、東北では初めて」というのがこの人の自慢げな口癖で、初当選(平成26年)以来の市政運営の主柱になってきた。将来の人口減や高齢化社会に備え、公共施設や商業施設、住宅などを「都市機能誘導区域」と「居住誘導区域」に集約し、コンパクトシティづくりを進めるのがねらいとされた。

 

 財政がひっ迫する中で、国の手厚い支援が受けられる制度を積極的に利用するのは行政トップとしては当然の選択肢である。しかし、こうした優遇措置には立地範囲や完成日時などの“縛り”がつきもので、その辺の兼ね合いが手腕の見せ所になる。上田市長は今回、撤回された「新図書館」構想を公表した際の記者会見でこう述べている。「国の多額の補助金をいただき、これを使って総合花巻病院の移転新築ができた。あるいは中央広場の整備もした。あるいはそういう考え方の中において、コンビニも併設されている災害公営住宅とか、子育て世帯向け地域優良賃貸住宅を国の支援を得ながら造れたわけですけれども、我々としてはこの図書館の複合施設の整備についても、まちなかの活性化に資すると考えております」(1月29日)

 

 「無理が通れば、道理が引っ込む」―。上田市政の主要施策のほとんどが立地適正化計画がらみだったことがこの発言から見て取れる。国の制度融資が有効利用されたケ-スももちろんあるが、“金目”を優先させた結果、ほころびも目立ち始めた。たとえば、その典型が「花巻中央広場」。市中心部のこの一帯は当初の立地適正化計画の中では居住を促す「居住誘導区域」に指定されていた。ところがその後、国交省から「住民の生命に著しい危害が生じる恐れがある」(レッドゾ-ン)と指摘された。急きょ、隣接する急傾斜地に擁壁を設置するなどして「広場」に衣替えし、昨年7月、中心市街地の活性化を旗印にオ-プンした。上田市長は今定例会で「この広場敷地のほか、居住誘導区域内にレッドゾーンが含まれていた個所が全部で7か所あった」―という事実を初めて認めた。当市のケースは”悪質事例”として、全国大手紙で2度にわたって、大きく取り上げられた。

 

 「コロナ」危機が迫りつつあった先月2月21日、市当局は「新型コロナウイルス感染症に関して」と題したチラシを作成し、3月1日付の広報誌に折り込んで全戸配布した。「持病のある方、ご高齢の方はできるだけ人混みの多い場所を避けるなどより一層、注意してください」などと留意事項が書かれていたが、チラシ作成の2日後の2月23日、市所有の公共施設であるこの広場で多くの市民に参加を呼びかける「どでびっくり市・冬の陣」が開かれた(2月29日付当ブログ参照)

 

 その時点で、コロナ危機の認識を持っていたにも関わらず、「負の遺産」ともいえる広場の開放を許可し、人寄せパンダよろしく“盛況”を装った。かと思ったら、今度は一転して公共施設の一斉休館へ。国の”号令”(トップダウン)に右ならえをした、公共施設の全面休館は3月2日から始まり、今月いっぱい続けられている。どうやら市民の健康などはそっちのけで、自分の“失政”を糊塗(こと)すること…つまりウソをつくことには憚(はばか)りがなかったようである。さらに、総合花巻病院の移転・新築にしても当初は病院側からの支援要請があったとの主張一点張りだったが、今となっては立地適正化計画の目玉プロジェクトとして、最初から「行政主導」型の事業だったことが明らかになっている。そして、追い打ちかけたのが今回の「新図書館」構想である。市議会3月定例会の施政方針でこう述べている。

 

 「国は令和2年度、新たに立地適正化計画で定めた都市機能誘導区域内に、都市再生整備計画に基づく都市構造再編集中支援事業により実施される誘導施設及び公共公益施設の整備等について、補助率2分の1という極めて有利な補助制度を設けることとしておりますが、市としては、図書館部分については市が図書館の区分所有権を取得することを前提として、この補助金の交付を受けることを想定しているところです」―

 

 図書館の中身(理念)よりも「箱もの」を先行させようという「クソミソ」思考がここに如実に表れている。このように、上田市政のほとんどの施策のよってきたる淵源(えんげん)は立地適正化計画にあった。私としては「諸悪の根源」とさえ呼びたくなるが、その一方で皮肉な言い方をすれば、この人の市政運営は終始一貫しており、少しもぶれてはいないということにもなる。施政方針にはこんな一節もある。

 

 「ここ数年、全国各地において新しい形態の図書館ができ、話題となっております。多くの図書館は今までの『静まり返った図書館』ではなく、子育ての場所として幼児が寝そべって絵本を読める場であったり、中高生が情報を得たり勉強したり、また自分の居場所を確保できる場であったり、老若男女がそれぞれ交流できる場所であったり、中には飲食自由・私語自由の場所も作ったり、あるいは、カフェはすでに当たり前との意見もあるようですが、それ以外の商業施設、賃貸住宅などとの複合施設も多くなってきています」―

 

 市民が描く「図書館」像と余りにもかけ離れた「上田」図書館の青写真は立地適正化計画の延長線上に位置づけられた当然の帰結だったのである。つまり、クソとミソとを一緒くたにした政策の貧困……「無理」(金目)を押し通した結果、「道理」(行政のあるべき姿)が吹き飛んでしまったという「自縄自縛」(じじょうじばく)のお粗末を満天下にさらしたのである。かつて、このまちの行政を担った人物に「ドーリズム」(道理主義)を掲げた首長がいたことをふと、思い出した。

 

 

 

 

(写真は立地適正化計画に示された新図書館の位置図。撤回された「新花巻図書館複合施設整備事業」構想案から)

 

2020.03.23:masuko:[ヒカリノミチ通信について]

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