「災害のリスクはありますが、どうぞご心配なく、お住まい下されたく…」―。ブラックユ-モアも腰を抜かしそうな“まちづくり”施策が花巻市で計画されていたことがわかった。9月2日付「読売新聞」が一面と社会面トップで報じた。全国の物笑いになった、あの“エアガン”騒動の余韻が冷めやらない中での全国版「秋の陣」の到来である。本日9月6日、花巻市議会の9月定例会が開会したが、行政側の一連の不手際にどう切り込むのか。一般質問の通告書でこの件を取り上げた議員はいないが、決算特別委員会も開催されるので、とりあえずそのお手並みを拝見することに…
「コンパクトシティ/住居集約先に災害リスク/国、危険区域の除外要請へ」―。こんな大見出しが一面に躍った。少子高齢化の社会に備え、国は「改正都市再生特別措置法」(2014年)の中で、公共施設や商業施設、住宅などを特定エリアに集約する「コンパクトシティ」構想を提唱。各自治体に対し、街づくりの青写真になる「立地適正化計画」の策定を求めた。花巻市も2016年6月に策定し、上田東一市長はことあるごとに「全国で3番目」と鼻を高くした。そのエリアのひとつ―「居住誘導区域」の中に急傾斜地など災害リスクのある個所が含まれていることが今回の報道で明らかになった。
コンパクトシティによる街づくりを進める自治体は全国で269市町。うち、9割を超える248市町で居住誘導区域内に大小の災害リスクを抱えていることが国交省の調査で判明している。「適正化計画の策定前から市街地が形成され、除外は非現実的」、「小規模な危険エリアが街中に点在し、除外は困難」、「計画策定後、危険エリアに指定された」(同紙)―などそれぞれの自治体で事情は異なる。この中で国が特に除外の徹底を求めているのは、住民の生命に著しい危険が生じる恐れのある「土砂災害特別警戒区域」など通称“レッドゾ-ン”と呼ばれる区域である。
今回、花巻市の中心部の居住誘導区域内にこの“レッドゾ-ン”が5か所あることが指摘された。旧花巻城址に隣接する区域が多く、市建設部の担当者は「お堀跡の急傾斜地など元々住居には適さない場所で、ほとんどが市有地。しかし、居住誘導区域に含めたこと自体が間違いだった」と防災意識の欠如を認めた。国は土砂災害防止法(施行令第3条)によって、“レッドゾ-ン”を厳しく規定し、区域内における開発行為を制限しているほか、コンパクトシティの形成に際しては最初からこのゾ-ンを除外するよう指導してきた経緯がある。どうして、こうした法令違反や指導を無視するようなことがまかり通ったのか。担当部局では今年度中に5か所を居住誘導区域から除外するとしているが、背後に見え隠れするのは「人権感覚」を欠いたとしか言いようがない、上田市政の“無神経”ぶりである。たとえば、モデルガンとはいえ、それをふるさと納税の返礼品にリストアップするという想像力のなささ加減…
“レッドゾ-ン”のひとつに今年7月1日にオ-プンした「花巻中央広場」がある。人の気配がほとんどない空間のたたずまいについては、8月9日付当ブログ(上田城、ついに落城か!?)で触れた。実はこの一帯は当初から居住誘導区域に指定されていた。隣接する上部に旧料亭「まん福」の建物あり、その境にはかなりの急傾斜地が伸びている。誰の目にも「居住不可」は明らかである。大雨で土砂崩れでも起きればひとたまりもない。急きょ用途変更し、境に擁壁を築いて公園化を急いだ所以(ゆえん)である。陽をさえぎる木陰があるわけでもなく、蛇口がたった三つの水飲み場があるだけで、トイレもない。酷暑のこの夏、“熱中症”公園などとも揶揄(やゆ)された代物である。皮肉交じりな声がまた聞こえてきた。「ひとっ子ひとり集まらないのだから、頑丈な擁壁もまるで宝の持ち腐れ。チグハグ市政の見本市だね」
長大のソフトクリ-ムなど「昭和レトロ」で全国的に人気のある「マルカン百貨店」(大食堂)は中央広場に近い市中心部に位置している。耐震診断で不合格になり、3年前にいったん閉店に追い込まれた。その後、若手起業家などがクラウドハンディングなどで資金を集め、2017年2月20日に再開した。耐震補強を施さないままの強引なオ-プンだったが、世間からは「奇跡の復活」などともてはやされた。ちょうどその年の3月、「改正耐震改修促進法」によって、震度6強から7程度の地震で倒壊または崩壊する危険性が高い大規模建築物が公になった。この百貨店もその中に含まれていた。法律施行から2年以上たったいまも耐震補強の工事は行われていない。若手経営者の側の危機(リスク)意識のなささにもびっくりさせられる。
今年4月1日、その真向かいに東日本大震災の地震・津波で被災した人たちが入居する「災害公営住宅」がオ-プンした(8月29日付当ブログ「被災者を孤立させるな!?」参照)。災害リスクのある場所を居住誘導区域に指定し、「あの日」のトラウマを背負い続けなければならない被災者を、倒壊の恐れのある建物の真ん前に住まわせる…このグロテスクで、倒錯した光景に私は戦(おのの)いてしまう。ブラックユーモアどころか、「悪夢」とさえ言える。「全国で3番目…」が口癖だった上田市政の基本政策―「立地適正化計画」が目の前でメルトダウン(炉心溶融)しつつある。政策理念などという高邁(こうまい)な話しではない。強権をほしいままにする、その神経を私は疑いたくなるのである。
「市民の安心・安全が第一。コンプライアンス(法令遵守)が市政運営の基本」―。この人の初心は一体、どこに行ってしまったのか…。「花巻に新しい風を」という初陣のスローガンがいま、”乱気流”となって、イーハトーブ(宮沢賢治の理想郷)の空を吹き荒れている。
(写真は花巻中央広場に築かれたコンクリ-ト擁壁。しかし、本来なら人が集うはずの場所にその姿はほとんどない。上部の瓦屋根の建物が旧料亭「まん福」。実は市が所有するこの建物も再利用の道がなく、放置されたまま=花巻市上町で)
《追記》~エアコン設置の摩訶不思議(定例会一般質問)
花巻市議会9月定例会の一般質問初日の9日、久保田彰孝議員(共産党)が災害公営住宅に関連し(8月29日及び9月5日付当ブログ参照)、「この夏の酷暑に耐え切れず、エアコンを自費で設置した。そのこと自体はやむを得ないことだと思うが、住宅建設の際、設置の必要性の議論はなかったのか。せめて、入居者に寄り添うという気持ちを示して欲しかった」という被災者の声を紹介した。エアコン設置については、今議会初日の行政報告で上田東一市長は以下のように述べて、胸を張った。
「近年の猛暑から、子どもたちの健康を守り安全を確保するため、設置を進めておりました市内小中学校及び花巻市立保育園等へのエアコン設置につきましては、予定通り7月中に設置を完了し、夏休み前に稼働することができました。小中学校につきましては、特別支援教室を含む全ての普通教室に350、幼稚園、保育園及びこども発達相談センタ-につきましては、全ての保育室と医務室を兼ねる職員室に40台をそれぞれ設置したところです。…岩手県内で小中学校へのエアコン設置を予定している29市町村のうち、エアコンの稼働時期を7月中とした市町村は本市以外では、葛巻、西和賀、住田、岩泉の4町のみと伺っており…」
冒頭の被災者の訴えとこの行政報告との乖離(かいり)に言葉を失った。当ブログで縷々(るる)指摘してきた上田市政の“無神経”ぶり(いや、”薄情ぶり”と言った方が正確かもしれない)をふたたび、思い知らされたからである。この日の一般質問で災害公営住宅の入居者の高齢者率は36・8%(市全体では33・8%)に上っているうえ、その大半が低所得者層であること。さらに、26世帯(入居枠31世帯)の入居者のうち、ひとり世帯が10世帯と三分の1以上を占めていることが明らかになった。私が絶句したのはその後の展開である。冒頭の「エアコン」問題に対して、市側の担当者は無答弁を決め込み、なぜなのか質問者もそれ以上、追及することはしなかった。私から見れば、この対応の違いこそが上田市政の体質をもろに浮き彫りにしていると思うのだが…
まるで茶番みたいな議場のやり取りを、私は虚しい気持ちでインタ-ネット中継で聞き入った。全体のエアコン設置費は約8億5,300万円。うち、一般財源から約6億6,900万円が充当されている。「この一部を災害公営住宅に回すという考えは浮かばなかったのか。これこそが真の意味で被災者に寄り添うということではないのか…」―。私はいつの間にかブツブツと独り言をつぶやいていた。今年の残暑はことのほか厳しい。頭上ではエアコンがうなっている。それにしても、わが行政トップのなんとランク付けの好きなことよ!?なんだ、このクソ暑さは!?
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