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「新図書館」構想⑬ 「新図書館 市民も議論を」…市民の関心、さらに

  • 「新図書館」構想⑬ 「新図書館 市民も議論を」…市民の関心、さらに

 

 「賢治記念館の上に賃貸住宅があったら…」という市民の“目線”に大いに納得させられた。花巻市の「新図書館」構想をめぐって、(3月)21日付の岩手日報「論壇」欄に投稿された文章の一節である。花巻在住の伊藤昇さん(78)が「新図書館 市民も議論を」と訴えた内容で、私の耳にも「ふいに見上げると、図書館の上層部のベランダに洗濯物がヒラヒラ舞っている」といった違和の声が届いている。市当局は今回、新図書館構想をいったん取り下げることにしたが、逆に一般市民の「図書館」像(イメージ)からいかに乖離(かいり)していたかということを浮き彫りにする結果になった。1ケ月ほど前には「自然豊かな新図書館に」と題する投稿もあった(2月27日付当ブログ参照)。市民の関心は日増しに高まっている。以下に伊藤さんの文章を転載させていただく。なお、宮沢賢治記念館など市内の公共施設は「コロナ」危機の影響で今月いっぱい、閉鎖されている。

 

 

 

 花巻市議会の一般質問を傍聴した。登壇者のうち複数の議員が新図書館の複合施設整備事業構想について取り上げていた。これは、市民の関心の高さを反映したものであろう。問題の焦点は、図書館の上になぜ賃貸住宅を併設しなければならないのかということと、予定地がなぜJR花巻駅東側なのかという2点であった。

 

 上田東一市長の答弁では駅前は花巻の顔であり、活性化対策を進めたいこと。そのために、市街地再生の核として図書館を建設し、同時に人口減対策として賃貸住宅を併設したいという説明であった。また、花巻駅前は旧3町からのアクセスが優れているということも強調した。私が違和感を覚えたのは、図書館を賃貸住宅との複合施設にするということである。

 

例えば、宮沢賢治記念館の上に賃貸住宅があったらどう感じるだろうか。記念館は、賢治の遺稿や作品、あるいは諸資料の単なる「入れ物」ではない。賢治の生涯や思想を象徴するものでもあると思う。だからこそ当時の関係者たちは、周囲の景観や施設のデザインについても深く検討したはずである。

 

 私は図書館もまた単なる「本の入れ物」ではないと思う。図書館は花巻にある他の文化施設に勝るとも劣らない文化の中心を担っているのではないだろうか。私たちに人生の豊かさや安らぎを提供するだけでなく、市の将来を担う子どもたちにとっても「すてきなところだなあ。また来たいなあ」と思えるような図書館でありたい。外観、広場、くつろげるカフェなども重要な要素だと思う。そのためには閑静で十分な広さの敷地が必要であろう。どのような図書館にするかという構想が決まれば、建設場所はおのずと決まるはずだ。

 

 花巻駅前の活性化はもちろん重要であり、少ない財源の中であれもこれもやらなければならない市長の立場も理解できないではない。だが、図書館建設と駅前の活性化対策は切り離して考えていただきたい。市長は今回の構想は市民や議会の意見を聞くための試案として提案したと述べていた。多くの市民が各所で討論を重ね、積極的に市に意見を提案していくことを期待したい。完成すれば長く利用されることになる図書館である。市民に愛され、親しまれる図書館を目指したい。

 

 

 

 

(写真は市内を一望できる高台に建つ宮沢賢治記念館。この建物の上に集合住宅が鎮座する光景はまさに「公共施設の美」に背を向ける愚行…グロテスクな代物としか言えない=インタ-ネッ上に公開の写真から)

 

速報~「コロナ」危機と地方自治の本旨…図書館対応の異常!?公共施設は休館延長

  • 速報~「コロナ」危機と地方自治の本旨…図書館対応の異常!?公共施設は休館延長

 

 「一斉休校と一斉休館と」―。安倍晋三首相の唐突な“号令”に歩調を合わせるかのように花巻市の公共施設の一斉休館は今月2日にスタ-ト。当初の期限の19日を前にその数は50か所以上に及んでいる。一方この日、図書館に限って21日以降の休館が解除されることが公表されたが、そのほかの公共施設では今月末まで継続されることになった。「万が一に備えるのが危機管理」(上田東一市長)という理屈はわかるが、「緊急事態宣言」の発動をちらつかせる国のトップダウンに同調するだけで、果たして良いものか。「私権」の制限が危ぶまれる宣言だが、今回の「コロナ」危機は一方で「地方自治の本旨」(自治の独立)を問いかける形にもなった。

 

 継続休館は地域活動の拠点となる27か所の振興センタ-のほか、宮沢賢治記念館や高村光太郎記念館、市博物館などの観光施設、主にシニア世代の活動の場である「まなび学園」などで、町内会が運営する「地区公民館」も休館を要請された結果、全地域での社会活動がほぼ麻痺状態に陥っている。そんな中、「情報拠点でもある図書館の全面休館は納得できない」、「学校が長期間休校になるいまだからこそ、子どもたちに読書の機会を与えたい」、「貸し出し自体の禁止は異常だ」…などの意見が殺到したため、市内の4館は当面、土日に限って開館することになった。

 

 そもそも、当市の図書館への異常な対応は最初から、他自治体に比べても突出していた。県内14市中、国が休校措置を決めた今月2日から19日までの全面休館に踏み切ったのは陸前高田と大船渡両市だけ。残りの自治体では3月中の図書館関連の行事を中止した程度で、ほぼ通常通りの業務を行った。このほか「休校中の小中学生の入館制限」(北上市)、「学習コ-ナ-の高校生以下の利用制限」(奥州市)、「児童生徒に変わる保護者への貸し出し」(滝沢市)など実情に即した臨機応変な対応が目立った。さらに、岩手県立図書館では5冊の本を詰め合わせた“福袋”を用意し、昨年の同時期より保護者の利用が1・5倍も増えるなど好評を博した。

 

 「ワンマンによる“トップダウン”行政だから、国のトップダウンには従わざるを得ないのだろうが、それにしても地方自治の裁量権を放棄した自殺行為ではないか」―こんな厳しい声が上田市政に寄せられている。コロナ危機に加え、「新図書館」構想の事実上の撤回、そして、にわかに降ってわいた“パワハラ”疑惑の包囲網の中で、上田市長はどこに打開策を見出そうとしているのだろうか―

 

 図書館こそが「危機管理の最前線」に位置していることをこの人はご存じないみたいである。ご本人は歯牙(しが)にもかけなかったが(2月21日付当ブログ参照)、2019年10月8日付の当ブログ(映画「『ニュ-ヨ-ク公共図書館』と花巻中央図書館構想の狭間にて」)をとくと読み直してもらいたい。「図書館は民主主義の柱であり、同時に社会インフラの根本である」―ということが書いてある。もっと、言おうか。「万が一のリスクを覚悟することも政治家(リーダー)に課せられた、つまり、あなたが背負わなければならない使命―ミッションなのだ」―と 

 

 ちなみに、趣味で通っているイベント団体の主催者からの連絡で、私は公共施設の休館延長を初めてを知った。HPでその事実を確認したのはずっとあと。庁内の無秩序状態が目に浮かんでくる。このまちのスローガン…「イーハトーブはなまき」はいま、沈没の瀬戸際に立たされている。

 

 

 

 (写真は休館の表示を掲げた図書館の出入り口=3月16日、花巻市若葉町の花巻市立図書館で)

 

 

 

《追記-1》~図書館特別委員会の設置へ

 

 花巻市議会の3月定例会最終日の18日、図書館のあり方などを調査・研究する「新花巻図書館整備特別委員会」が正式に設置されることが決まった。議長を除く全議員(25)人で構成され、委員長に伊藤盛幸議員(市民クラブ)、副委員長に佐藤峰樹議員(明和会)を選出した。前掲の「一市民」が指摘するように二元代表制に則った図書館論議を積み重ね、議会としての独自の「図書館」像を示してくれることを期待したい。

 

 

《追記―2》~「対岸の火事」とはなさずに「他山の石」となせ!!

 

 「佐川理財局長(パワハラ官僚)の強硬な国会対応がこれほど社会問題を招き、それにNOを誰れもいわない これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ、手がふるえる、恐い 命 大切な命 終止府(原文のまま)」(コメント欄に”遺書”の全文を掲載)―。衝撃的で痛切な内容の一通の“遺書”が19日付の新聞各紙で公開された。2年前、学校法人森友学園大阪市)への国有地売却と財務省の公文書改ざん問題に抗議・自殺した同省近畿財務局の赤木俊夫さん(当時54)が書き残していた。

 

 赤木さんの妻が18日、国と佐川宣寿(のぶひさ)・元同省理財局長に計約1億1200万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした際に明らかにされた。読む側にとっても、震えを押さえることができない文面である。あちこちで、“パワハラ”騒動はあとを絶たない。決して「対岸の火事」と目をそらしてはならない(3月4日付と同6日付け並びに同18日付の当ブログ「パワハラ」関連記事を参照のこと)

 

 

《追記―3》~ヤマハ、「パワハラ」自殺を認定

 

 大手楽器メ-カ-ヤマハ(本社・浜松市)の男性社員が今年1月、上司から厳しい指導を受けて体調を崩し、自ら命を絶っていたことがわかった。会社側は、体調不良の背景にパワーハラスメントがあったことを認め、「関係者におわびし、再発防止に全力を挙げる」としている。会社や関係者によると、亡くなったのは研究開発部門の30代の男性社員。昨春、課長職に起用されたことで、研究開発部門の執行役員だった50代の上司の男性と接する機会が増えた。上司は2017年に他社から中途採用された。

 

 会社によると、男性社員は、昨年6月ごろから体調を崩し、精神科を受診。11月から休職して実家で療養していたが、今年1月、自死した。社内の通報窓口に昨年末、男性へのパワハラを示唆する情報が寄せられていたという。ヤマハは、男性の死を受け、第三者の弁護士に調査を依頼。男性が体調を崩したのは、上司によるパワハラ行為の影響があったと認定し、上司を3月末で退職扱いとした。上司は1月から出社していないという。

 

 ヤマハの山畑聡常務執行役は「ご遺族には大変申し訳なく思う。内部通報まで気がつかなかった。対話重視で風通しの良い職場を作り、コンプライアンスを強化したい」と話している(3月20日付「朝日新聞」電子版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他山の石、以て玉を攻むべし」…明石市長の「パワハラ」始末記

  • 「他山の石、以て玉を攻むべし」…明石市長の「パワハラ」始末記

 

 花巻市の上田東一市長の“パワハラ”疑惑に関連し、3月4日付当ブログ(「『ハラスメント』問題が市議会へ…メンタル疾患の休職者が急増!?」)の中で、いわゆる“怪文書”の一部を紹介した。その際、言及しなかった部分に「明石市長どころでない状況です」という文言があった。兵庫県明石市の泉房穂(ふさほ)市長(56)は自らの暴言などの責任を取って、いったん辞職した後の市長選で返り咲いたことで一躍有名になった。その顛末(てんまつ)については、以下に新聞記事(要旨)を掲載するが、奇跡の復権をとげた時の言葉が印象的である。

 

 「明石市政の混乱を招いた責任は私にあり、本当に深く反省している。職員としっかり信頼関係を築き、明石のまちづくりをしっかりやっていきたい…。自分自身の欠点は、苦手分野を後回しにすることと感情のコントロ-ルの2つ。苦手分野は、これから職員から学び取り組んでいきたい。感情のコントロ-ルについては、この1ヶ月以上日記を付けたり、専門講座を受け続けて、55歳にして改めて自分自身の至らなさを知った。その点についてもしっかりと改めていきたい」(当時の新聞報道などから)

 

 

 ところで、こんな職種があることにも驚かされるが、「謝罪」コンサルトによると、この種のハラスメントの解決法のひとつに「す・き・か・な~」方式があるという。「す」=スピ-ド(即決)、「き」=聞く、「か」=感情(+情熱)、「な」=泣く…の頭文字を取った命名である。

 

 一度、政治生命を失いかけた泉市長が市民の支持を受けて再選された背景には、この方式を忠実に実行したこともあるらしい。辞職会見の中で、泉市長は涙ながらにこう謝罪した。「私の行為は許されないことであり、すべて私の責任。リ-ダ-としての資質を欠いているのは明らかで、処分を受けるのは当然。申し訳ありません」―。まさに……「批判の直後に素早く記者会見を開き(スピ-ド)、会見での質問にしっかりと受け答えをし(聞く)、自分の言葉(感情)で涙ながらに話した(泣く)」というマニュアル通りの行動である。

 

 本日18日、花巻市議会の3月定例会が閉幕するに当たり、上田市長に対して、詩経の「他山の石、以て玉を攻(おさ)むべし」という教えを献上しておきたいと思う。広辞苑などによると、よその山から出た粗悪な石でも、自分の宝石をみがく役には立つという意。転じて、他人の誤った言行でも、自分の修養の助けとなるという意味だという。私自身にとっても、肝(きも)に銘じておかなければならない至言である。

 

 

 

 

●職員への暴言で市長が辞職したことに伴う兵庫県明石市の出直し市長選が(2019年3月)17日に投開票された。前市長で無所属の泉房穂(ふさほ)氏(55)が、元市長で無所属の北口寛人(ひろと)氏(53)、元県議で共産新顔の新町美千代氏(71)を破り、3選を果たした。泉氏は前回選挙での得票(5万1千票)を大きく上回る8万票余りを獲得した。泉氏は2期目満了(4月30日)を待たず辞職したため公職選挙法の規定で辞職前の任期となり、4月の統一地方選で市長選がある。

 

 暴言問題は今年1月に録音デ-タで発覚。泉氏は2017年6月、国道用地の買収の遅れに激高し、「(建物に)火つけてこい」「燃やしてしまえ」と職員に怒声を浴びせた。発言を全面的に認め「パワハラよりひどいこと」と謝罪。先月2日に辞職した。録音には「市民の安全のためやろ」との発言もあり、市役所には泉氏を擁護する意見が批判より多く届いた。一方パワハラ問題の専門家は「目的の正しさで暴言を正当化するのは危険」と指摘するなど議論を呼んだ。

 

 泉氏は告示3日前に立候補を表明。辞職後、怒りの感情をコントロ-ルするアンガ-マネジメントの勉強会に通ったとし、選挙戦では「(暴言は)選挙結果で許されるものではない」と謝罪を繰り返した。泉氏は2期8年で、中学生までの医療費を所得制限なしで無料化するなどの子育て支援策を実現。街頭演説や集会では「人口や税収が増えた」と訴え、「税収で高齢者施策に取り組みはじめた段階。明石の未来に責任がある」と呼びかけ、出直しへの理解を広げた。

(2019年3月18日付「朝日新聞」)

 

 

兵庫県明石市の泉房穂市長(56)は(2020年1月)15日、市内で開かれた新年会の席上、催しの開催をめぐって市議と口論になり、「やめてまえ」と暴言を浴びせていたことを明らかにした。泉市長は昨年1月、市職員に対する暴言が問題化して市長を辞職、出直し選挙で再び当選した経緯がある。同日会見した泉市長らによると、市長は13日昼ごろ、市内の公民館であった地域住民らの新年会に招かれて出席。花火大会見物客らが死傷した2001年の歩道橋事故の影響で中止された「市民まつり」再開の可否をめぐり、自民系会派の市議と言い争いになった。

 

 市長は、再開を求める市議に「(事故の)遺族ら関係者がおり、軽々には判断できない」と説明したが、市議がさらに再開の提言書を3月市議会に提出する考えを述べたことに立腹。「やめてまえ」と2回怒鳴り、直後に市議に謝罪して発言を撤回した。市長は「飲酒していたが、酔ってはいなかった」としている。市議は取材に「市長はすぐ我に返ったようだ」と語り、翌14日にも改めて謝罪があったとして「(謝罪を)受け入れる」と話している。泉市長は会見で「言動には慎重であるべきなのに、感情的になって不適切な発言をしてしまい、申し訳ない。改めて強い自覚を持って対応していきたい」と話した。

 

 泉市長は旧民主党の衆院議員を経て11年に市長に転身。昨年1月、道路拡幅工事に伴う建物の立ち退き交渉をめぐり、部下職員に「火つけて捕まってこい」などと暴言を浴びせていたことが発覚した。引責辞職した後の同3月にあった出直し市長選に再び立候補して当選、任期満了に伴う翌4月の市長選でも無投票で4回目の当選を果たした。暴言問題発覚後、怒りをコントロ-ルする「アンガ-マネジメント」講習を受けたと明らかにしていた。

(2020年1月15日付「朝日新聞」)

 

 

 

(写真は出直し選挙で復権を果たした泉市長=インタ-ネット上に公開の写真から)

 

 

 

 

《追記》~ある市民からの投稿(3月14日付)

 

 今の市長が最初の選挙に出たとき、高学歴で経験豊富な割に腰が低く「市民の声を大事にする」との主張であったので期待していました。選挙では「市長になっても市長と呼ばずに『上田さん』と親しみをもって呼んでほしい」ともおっしゃっていました。予想通り当選しましたが、その後のオ-ル与党(市長派)化する議会の動きを見て「危ないな」と感じていました。今の「市長」を生み出したのは我々市民であり、最たるは議会ではないかと思います。健全な二元代表制を取り戻し、市民の代表者としての議員には是々非々で市長と向き合っていただきたいと強く願います。そして「上田さん」には当選当初の思いを取り戻していただきたいと、切に願います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新図書館」構想⑫ 南からの、新しい風…「二人爺ィ」に抱腹絶倒

  • 「新図書館」構想⑫ 南からの、新しい風…「二人爺ィ」に抱腹絶倒

 

 「なぜ、図書館の上層部に賃貸住宅を建設しなければならないか理解できません。『図書館の自由に関する宣言』(日本図書館協会)によると、図書館には『公共施設の美』としての評価もあります」(陳情書)―。花巻市議会文教福祉常任委員会(本舘憲一委員長ら8人)での陳情審査(3月9日)の席上、はっきりした口調で「(図書館の)単独整備」を要求する意見陳述を聞きながら、私はハッと気が付いた。先月14日に花南振興センタ-で開かれた議会報告会で、鋭い意見を表明した女性がいたのが強く印象に残っていた。今回の陳情者の山下牧子さんがその人だったことを初めて知った。

 

 先の議会報告会は2月中旬、市内12か所で3日間にわたって、開催された。中心市街地に位置する「まなび学園」の参加者がわずか3人だったのに対し、私の地元である花南振興センタ-に足を運んだ住民は27人と最高を記録した。山下さんら女性が先導する形で議論が白熱した(2月14日付当ブログ参照)。なぜ、これほどまでの盛り上がりを見せたのか―その時以来、ずっと考え続けてきた。約10日後に催されたあるイベントをのぞいて、その謎が少し、解けたような気がした。

 

 「『北芸の会』創立35周年記念公演」と銘打った演劇が2月23日、隣接する北上市の「日本現代詩歌文学館」の中ホ-ルで披露された。「北芸」は北上を中心に芝居好きが集まった素人劇団である。日本で唯一、詩歌に特化した図書館であるこの文学館の誕生の経緯については2月27日付当ブログ(「するべじゃ」の鶴の一声)で触れた。この日の演目は当時、理事として文学館の立ち上げに尽力した同市出身の詩人で脚本家の相沢史郎さん(故人)の不朽に遺作『二人爺ィ』。昭和61年以降、東京をはじめ全国を縦断した主なお披露目だけで50回近くに及ぶ。

 

 「二人で待づべな、昔雑魚(ざっこ)釣りした時みでぇぬよ。金三。な~」―。舞台では老人ホ-ムで暮らす二人の老人…清助と金三の悲喜こもごもの人生が演じられていた。その絶妙のセリフと仕草に腹を抱えて笑い転げていた時、ふいに文学館の生みの親、「五郎さん」(当時の北上市長、斎藤五郎さん)の言葉を思い出した。いま、隣り町は半導体記憶装置フラッシュメモリ-を製造する「キオクシア(東京、旧東芝メモリ)」のオ-プンで話題が持ちきりだが、斎藤市長は40年近くも前にこう語っていた。

 

 「東芝などの企業進出で北上市は、工業都市としての発展がほぼ約束されたと思う。しかし、せっかく文学的な風土があるにもかかわらず、その象徴になるものがない。工業砂漠だけにはしたくない」(昭和59年1月25日付「岩手日報」)。ふと、目を舞台に移すと、三代目「金三」役の小笠原百治さんが世をはかなんで首にひもを回そうとしている。「自死」は不首尾に終わるが、迫真の演技である。83歳の小笠原さんは私の自宅近くでリンゴ園を経営する親しい仲である。大学で演劇を学んだ本格派の「金三」さんがニヤッと笑って言った。

 

 「この地区は北上と背中合わせ。だから、“五郎”精神というか、文化の香りがする風もビュンビュン吹いてくるんだよ。花巻の町方とちょっと、違う風土があるのかもしれんな。それに賢治精神って言ったらいいのか、賢治を身近に感じることができる土地柄だし…」―。宮沢賢治が「羅須地人協会」を設立し、近隣の農民らと“農民芸術”を論じたのもこの地だった。そういえば、花南地区は市内で唯一の人口増加地区でもあり、自宅をここに構えて、車で15分ほどの工業団地に通勤する“新住民”も増えつつある。

 

 実は山下さんもこの地区の住民で、南からの「ビュンビュン」風を日ごろから感じているのかもしれない。「今回の新図書館構想には驚きと同時に失望を感じた」…山下の陳述を聞きながら、私はドキュメンタリ-映画「ニュ-ヨ-ク公共図書館」の場面を脳裏に浮かべていた。入り口に2頭のライオン像が置かれた建物は、19世紀から20世紀にかけたボザ-ル様式の傑作といわれ、1911年のオ-プン当時は米国一の総大理石建造物として話題をさらった。図書館とはまさに山下さんが指摘するように、「公共施設の美」としても存在するのである。

 

 

 

(大の仲良しの清助と金三が取っ組み合いのけんかをする場面も。げんこつを食らわせているのが「金三」役の小笠原さん(右)=2月23日、北上市本石町の詩歌文学館中ホ-ルで)

 

「新図書館」構想⑪ 追認機関と堕した“図書館人脈”…教委も蚊帳の外

  • 「新図書館」構想⑪ 追認機関と堕した“図書館人脈”…教委も蚊帳の外

 

 

 「生涯学習の委員会については今週にかけて、住宅の建設も含めて皆さんから大変好評だったと聞いています」(2月20日開催の記者会見での市長発言)―。ここで指摘された「花巻市社会教育委員会議」(議長=石橋恕篤・富士大学教授、委員20人)は2月17日に開催され、踏み込んだ意見交換がないまま「商業施設的なイメ-ジをあわせ持つこじゃれな図書館をつくっていただいきたい」という意見に集約される形で、全員一致で新図書館構想を原案承認した。このように、本来は公正・中立であるべきはずの審議会などの各種組織が当局側の追認機関に成り下がっている実態が次々に明らかなりつつある。さらに、組織運営や委員構成などでのル-ル違反も目立ち、もはやその存在自体に首を傾げる市民も多い。

 

 たとえば、“シャンシャン”承認を決めた同上会議の委員の中に「教育振興運動推進協議会」の肩書を持つ人物の名前を見つけた。「もしや」と思って確かめたら、現職の花巻市議と同一人物だった。市議会先例集には「法令に規定されているものを除き、各種委員会、審議会等の委員には議員は選出しないこと」という申し合わせ事項がある。明らかに、ル-ル違反である。この日の会議には欠席していたが、3月定例会の一般質問で件(くだん)の議員は新図書館構想を前提にしたうえで、「周辺広場を芝生化するということだが、祭りの山車の運行によって、芝が傷つく心配はないか」などとトンチンカンな質問をする始末。この議員は一方で、図書館問題のあり方を調査・研究する「市議会特別委員会」に身を置く立場にあり、“二股膏薬”(ふたまたこうやく)ぶりを発揮した。

 

 さらに、図書館と最も至近距離にあると考えていた「花巻市立図書館協議会」(坂本知彌会長、委員10人)は2月26日に開催され、白熱した「図書館(理念)」論争を期待したが、これも肩透かしに終わった。当局側の説明席に目をやると、これまで面識のなかった男性が最前列に座っていた。突然、手を上げて新図書館構想についての補足説明を延々と始めた。後で確認すると、アドバイザ-として出席していた富士大学経済学部の早川光彦教授(図書館学)だとわかった。かねてからの助言者だとは知っていたが、たとえアドバイザ-としての立場だとしても公正な議論が求められる場の発言としてふさわしいのかどうか。果たせるかな「複合化する賃貸住宅には入居者を確保する見通しはあるのか」―などと理念論争をわきに置いた的外れな意見が続き、最終的に当局原案を「了」とすることに落ち着いた。

 

 「不存在」―。花巻市教育委員会協議会の会議録の文書開示請求(2月21日付)への回答はたったの3文字だった。ここ数年来の教育委員会改革によって、それまで政治的中立性が求められてきた教育委員会の一部事務が行政部門に移管したが、それでも図書館が学校教育の柱であることに変わりはない。今回の新図書館構想をまとめるに当たって、教育現場を管轄する教育委員会はどう関わったのか―というのが私の当初からの重大関心事だった。当該会議が1月27日に開催されたことを知り、会議録の開示を求めた結果がこれである。不存在にした理由について、佐藤勝・教育長は「協議会は自由意見を述べる場で、今回は当局の新図書館構想案の説明を受けるにとどめた。規則上、会議録の作成は必要ではない。教育委員会の方向性は今後、表明していきたい」と話した。

 

 さらに、構想案提示の際の議論を「記録」として残すべき最低限の業務を放棄したとあっては、国レベルの公文書の改ざんや廃棄に勝る重大な責任放棄と言わざるを得ない。「百年の計」ともいわれるこのビッグプロジェクトについて、教委側にはいま現在、「記憶も記録ない」という摩訶不思議がまかり通っている。

 

 「専門家の方々にもおほめをいただいている」―上田東一市長はことあるごとにこう口にしてきたが、新図書館構想に“お墨付き”を与えた組織の実態はまさに追認機関そのものだったことが白日の下にさらされた。逆に言えば、こうした“図書館人脈”のお墨付きをアリバイ的に利用しようという当局側の魂胆も浮き彫りになった。いまとなっては、最初から「異議なし」委員を選出していたのではと皮肉のひとつも言いたくなる。やはり、今回の新図書館構想はそもそも“無理筋”だったのである。図書館関連予算の撤回は遅きに失したと言わざるを得ない。

 

 

 

(写真は現図書館の郷土資料コ-ナ-。宮沢賢治や高村光太郎など郷土ゆかりの資料整理も乱雑で、ソフト面の充実が課題になっている。だからこそ、市民の多くは本が“生きてある”存在を願っているのだと思う=花巻市若葉町で)