花巻市長選は23日投開票され、現職の上田東一氏(67)が新人の前市議会議長、小原雅道氏(61)に競り勝ち、3選を果たした。確定得票は上田氏が22,676票、小原氏が20,792票。米軍普天間基地の「移設」問題が最大の争点になっていた沖縄県・名護市の市長選もこの日投開票され、移設に賛成する現職が再選された。国政も含め、民意の座標軸が変革を好まない方向に動いているのかもしれない。
(写真は敗戦の弁を語る小原氏(12月23日午後9時半過ぎ、花巻市下小舟渡の後援会事務所で)
花巻市長選は23日投開票され、現職の上田東一氏(67)が新人の前市議会議長、小原雅道氏(61)に競り勝ち、3選を果たした。確定得票は上田氏が22,676票、小原氏が20,792票。米軍普天間基地の「移設」問題が最大の争点になっていた沖縄県・名護市の市長選もこの日投開票され、移設に賛成する現職が再選された。国政も含め、民意の座標軸が変革を好まない方向に動いているのかもしれない。
(写真は敗戦の弁を語る小原氏(12月23日午後9時半過ぎ、花巻市下小舟渡の後援会事務所で)
今回の花巻市長選を“密着”取材しようと思ったのは、現場抜きの原稿はあり得ないという職業病(記者根性)のせいもあるが、何か予兆とか予感めいたものを感じたからでもある。その正体を知りたいと思った。
「まさみち」さんこと、立候補者の小原雅道氏(61)の弁舌が選挙戦中盤から微妙に変化してきた。「市職員こそが車のエンジン」「ワンマンとリ-ダ-シップは違う」「どこでも、賢治さんを感じることができる町に」…。「公約」の棒読みから次第にアドリブが多くなってきたからである。「自分でもよく覚えていない」とまさみちさん。だから、本物なんだと私は納得した。仮衣装を脱ぎ、ひょいと素顔が表に飛び出した瞬間だった。無意識こそが“進化”をもたらすの謂(い)いである。
素顔は素顔を呼ぶ-。終盤戦、周囲の状況にも次第に変化がみられるようになった。たとえば、「手振り」―。最初は手のひらを遠慮がちに動かすだけの仕草だったが、それが両手の動きに変わり、最後は大きな輪を描く「OK」マ-クに。まさみちさんに向けられる身ぶり手ぶりがどんどん、大胆になっていった。つまり、双方の距離が次第に狭くなっていくのを実感したのである。
「予兆」とか「予感」はこうした変化の中から生まれた。私は市議2期目のスロ-ガンに「いざ、『イ-ハト-ブ』の建国へ」―を掲げた。いま考えて見ても、大層なお題目ではあるが、その建国事業がこの1週間の選挙戦の中で少し、実現に向けて動き出したと感じたのである。「イ-ハト-ブ」とは“夢の国”(ドリ-ムランド)を夢想した宮沢賢治の造語である。「子どもたちには夢を/若者には希望を/お年寄りには安心を」―。小原氏の政治理念は賢治が生涯、追い求めた「本当の幸せとは何か」というテーマと見事に通底している。花巻の未来を決するであろう、この大事業に実際に着手できるかどうか―23日に決まる。
(写真は赤ちゃんを抱く女性と話し込むまさみちさん。この笑顔の中に私はまさみちさんの“素顔”を見つけた=1月22日午後、花巻市南新田のきらきらモ-ルで)
8:25~花巻市内でもコロナ禍が拡大しつつある。そんな中での選挙戦。新しい市長には未来に向けた文明論的な思索も求められる。6日目の“街宣”スタ-ト
8:53~開店前のス-パ-の前。聴衆はおじいさんがひとり。しかし、まさみちさんは語りけるようにマイクを握る。「行政を進めるうえで欠かせないのは、車のエンジンともいえる職員たちです」。本日第1号のグ-タッチも
9:43~焼き肉店の前で地元紙記者が密着取材。「勢いがありますね」という言葉に意を強くするも「油断は禁物」と言い聞かせる
9:53~先を急ぐ女性が車中で「ウンウン」とうなづきながら、通り過ぎる。応援の手法もだんだん、多彩になってきた
10:27~大型ス-パ-の駐車場。新花巻駅の開業をテ-マにした映画「ネクタイを締めた百姓一揆」に、まさみちさんは公務員役で出演している。「あれっ、小原さん?」とひとりの女性が近づいてきた。同じ映画にチョイ役で出たのだという。元“俳優”同士の劇的な再会。「少し、痩せたんじゃない。ご飯をちゃんと食べてる?とにかくトップになってくださいね」
11:38~花巻駅東口。現市政が計画する駅橋上化によって、東北駅百選にも選ばれている現駅舎は撤去されることになっている。「こんなことが許されますか」とまさみちさん。ふと見上げると、駅前のホテルの上階から万歳「メッセ-ジ」を送る人影が…
12:18~フェアトレードの店を経営する知人の女性店主が客の手を引っ張って、飛び出してきた。自分の機関紙に応援メッセージを載せてくれたのが縁。「勝利以外にない。ガッツポ-ズの記念写真を撮って…」。ハイ、ポ-ズ。パチリ。まさみちさんを真ん中にみんな破顔一笑
14:32~北上街道とも呼ばれる一角。昨年12月、当市の人口が北上市に抜かれて第5位に転落したことについて、まさみちさんは「今回の出来事」と表現した。キオシクア効果が顕著は隣市との友好連携への意欲がみなぎった
14:59~ブ-、ブ-という音に振り向いてみると、車の窓を開けて手を振っている。ついに新手の「クラクション」応援も登場した
15:57~道路をはさんだ郵便局の前で、局長さんが腕を丸めて「OK」マ-ク。こっち側では通りがかりの女性が「娘が小原さんと高校の同級生だって」「えっ、お名前は?」―。お年寄りも加わり、しばしの路上歓談に花が咲いた
16:51~生協など大型店が軒を並べる「きらきらモ-ル」の駐車場。身じろぎもしないで聞き入る女性がいる。「きらきらと輝く、夢のようなまちをつくってほしい」―。弁舌が終わった後も拍手を送り続けた
17:16~信金支店前。体が凍りつきそうな寒さ。「こんな真冬の選挙なんて一体、だれが決めたのか。まさみちさん、次からは春か秋の選挙にしてくれんかな」とひとり毒づく。選挙戦はあと1日―
(写真は雪の花が咲く高台での出会い。深々と頭を下げるまさみちさんと笑顔で迎える住民。こんなさわやかな光景を見たのは実に久しぶり=12月20日、東和町内で)
大寒入りした20日2時半すぎ、霊峰・早池峰山(大迫町)のふもとは突然の猛吹雪に見舞われていた。マイクを握るまさみちさんの頭はあっという間に“雪頭巾”になり、集まった約30人の支援者たちも屋根付きの建物の下に緊急避難。「ユネスコ文化遺産の神楽も元を正せば、自然への畏敬(いけい)から生まれた。この財産を地域再生のいしずえに」とまさみちさんが力説すると、全員が「ガンバロ-」の雄叫びを上げた。
この日の“街宣”がスタ-トした直後の午前9時すぎ、石鳥谷八幡地内の農道で雪の中に脱輪している車を発見。2日前に続く2回目の救出作戦が始まった。まさみちさんを先頭に全員がダッシュ。スコップで雪をかきだし、みんなで押せども今回は脱出に失敗。「先があるので…」と言ったのは実は当方の口ではなく、相手だった。「スケジュ-ルが詰まっていると思う。選挙、がんばってください」と逆に激励された。
体の芯が冷え切った。“救いの神”はこんな時を見計らったように現れるものである。「これもっていげ。熱いがらやけどするなよ」と近くの農家の夫婦がほっかほかの焼き芋を差し入れてくれた。「まで、沖縄にも出荷している自慢のコシヒカリだ。うめぞ」と今度は米袋を担いできた。まさみちさんも「あったかいご飯をいただきます」と選車のトランクに積み込んだ。「大寒」から逆襲を、いや恩恵を受けた若者がいた。
「選挙運動って、こんなに厳しいものだとは想像できなかった」と立花悠さん(28)。花巻市内でタクシ-の運転手をしている。「若い世代の話にも耳を傾けるという候補者に共鳴した。でも、腕が凍りそうで…」―。ドア全開の先導車に初乗りした立花さんは今度はグ-タッチ攻勢にびっくり。「選挙って、人の心も動かすんですね。この一帯を“グ-タッチ”街道と名づけたいですね。22日の最終日まで年休を取って参加します」とニッコリ。
(写真はもうちょっとで、雪だるまになりそうなまさみちさん=12月20日午後、大迫町の大迫振興センタ-前で)
《追記》~選挙応援デビューを飾った立花さん(コメント欄に写真)
8:30~「センセイ、センセイ」と呼ぶ声。障がい者施設の園長時代、入所者のひとりだった「まきちゃん」。お母さんも顔を出し、がっちり握手。「障がいのある方が笑顔いっぱいのまちをつくります」とまさみちさん
9:25~昨日とは打って変わっての晴天。しかし、この日中でも気温は零下12度。地元の東和町に近づくにつれ、熱気が伝わってきた。沿道を埋めた住民はざっと、50人。白雪に照らされて、みんなの目もキラキラと輝いている。まさみちさんも気合十分。さぁ、行け「まさみち号」
10:14:~田瀬地区で街宣。「ここで初めて口にしますが、父は寝ても覚めても田瀬ダムの行く末を気にしていました」とまさみちさん。十数人の住民は“父親秘話”に身を乗り出して、聞き入った
10:25~まるで、墨絵のような雪景色、雪布団をかぶった棚田もまた、格別。「昔、このあたりには“隠し田”がたくさんあった。年貢を免れるための百姓の知恵。山からの水も豊富だったから」―車中のこんな会話も楽しみのひとつ
11:02~下浮田地区の田園地帯。雪原のてっぺんで、頬かぶりしたおばあちゃんが雪かきの手を休めて両手でバンザイ。辛口評定で知られる運転手さんが自信たっぷりに言った。「いまの瞬間で決まった。(投開票日の)23日はハッピ-デ-になる」
11:16~走る、走る。まさみちさんと支持者とが“脱兎”のごとく走る。長い耳同士の二兎ががっちりとグ-タッチ。さぁ、ゴ-ルはもう、目の前
11:37~大リーグの菊池雄星投手の伯父さんが除雪機の運転を止めて、待ち構えていた。「いやぁ、こっちこそ、雄星さんから勇気をと元気をもらったんです」とまさみちさん。行政区長を務めるおじさんはただただ、ニコニコ笑っているだけ
11:54~高台で雪かきシャベルをグルグル回しての応援メッセ-ジ。四囲から「まさみち」コールが聞こえてくるな、そんな気分に…
12:46~「おめさんが38歳で議員になった時から、ずっと見てきた。市長に出ると言った時は正直、びっくりした。んだども、おめさんの偉ぶらないところが、オラは好きだ」―。支援者のこの言葉に今度はウグイスさんが感激、マイクの声が涙声に…
14:41~スーパーなど大型店舗が立ち並ぶ高台からの大音声。眼下には買い物客の車がずらり。響け、広がれ、どこまでも!寒風に向かって、みんなで叫ぶ
15:13~花南地区を遊説中、沿道のあちこちからグ-タッチを求める手招きが…。この作法はコロナ禍がもたらした数少ない恩恵なのかもしれない。一目散に駆け寄るまさみちさんを見ながら、「選挙とは実に健康増進のための運動なのだな」と別のことを考えていた
15:46~富士大の真ん前。女子学生ふたりが構内から出てきたが、ちらっと眺めながら、通り過ぎた。無関心のなせるわざかとがっかりしたが、「皆さんの大学との連携を強めたい」とまさみちさんが口にしたとたん、あちこちの窓から手を振る姿が。ホッとして、「必ず、投票に行ってくれよ」と思わず、叫んでしまった
16:16~賢治教育に力を入れている南城小学校の下校隊列に遭遇。きちんと挨拶をして、「ガンバって」の大合唱。さすが…
(写真はウグイスさんと雪道を走るまさみちさん。昨日、スッテンコロリンしたので、この日は滑り止めのついた長靴に=12月19日午前、東和町内で)
《追記》~「いやぁ、勇気と元気をもらったのは、こっちの方で方です」(コメント欄に写真)
大リーガ-、菊池雄星投手の伯父さんと親しげに言葉を交わすまさみちさん。左が行政区長を務める伯父の佐々木雄幸さん(84)=1月19日午前、東和町内で