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11月**日は、忘れられないひとの誕生日だった。
友人の娘 静ちゃんは、同じ日に生まれた。
その日が来ると、会いたいひとに、会えない嘆きとともに、
静ちゃんの誕生日を思い出して、3歳のころから、プレゼントをあげた。
静ちゃんが、小学校を卒業するころまでつづいて、途切れた。

実は、と、訳を打ち明けると、22歳の静ちゃんは、
悲しいお話だけど、おかげでわたし得しちゃってたわけね、と笑う。
ずいぶん損したわけだ、と私も答えて笑った。
ビアグラスを合わせ、二人で乾杯した。

何か好いことあったの、と、静ちゃんのお母さんが寄ってきて聞く。

A子さんは女子大を卒業してすぐ、親に見合いをさせられた。
見合いの席はお茶席だった。
御茶請けにきんつばと餡玉がでた。
仲人にどちらがお好きですか、と聞かれて躊躇した。
どちらも好きだったので、迷って
キンダマと答えてしまった。
お見合いは赤面と、
声に出せない笑いとともに流れた。
その後、紆余曲折あって、友人K君と結婚して現在に至る。
八ヶ岳に仲間とテニスに行ったことがあった。
友人の息子は小学2年生で、すぐ飽きて、川に遊びに行こうと言う。
靴を脱いで水に入って一緒に遊んだ。
清流は冷たく、見ると、岸に生えたクレソンが水に洗われ流れている。
「これを見ろー」
クレソンをちぎっては食べ、ちぎっては、食べてみせた。
少年はポカンと口を開け、驚いてみている。
顔色も少し変わっていた。

少年は、テニス歴をつみかさねて
中学生で東京都チャンピオンになった。
オーストラリアに遠征して、カップを3個持ち帰った。
サーブ、ショット、脚運び、
「これを見ろー」と言われて、顔色を変えるのは
いまはわたしだ。

夢野久作『猟奇歌』はこう歌う。

『胎児よ胎児なぜ躍る
母親のきもちがわかって
怖ろしいか』

ちかごろ地震頻発である。
地震は地中のなまずの騒ぎだという伝がある。
なまずの『猟奇歌』はこうだろう。

なまずよなまずよなぜ躍る
人類のきもちがわかって
怖ろしいか


立体ジグゾーパズルというものがある。
奥方はそれで地球を作る。
面白かったからもう一度やりたい、壊して、という。
地球を壊す。

地球の創造者と破壊者と。
だいそれた夫婦である。

藤さんという老人が近所に住んでいた。
痴呆症の始まった奥さんを施設に入れて、
ちびちゃんというポメラニアンと一緒にいた。
ちびちゃんにも老衰が始まっていて、もう目が見えなかった。
「ちびを連れて施設に入るわけには行かないので」
と、犬の散歩で出会うと言っていた。

12月の初めころ、藤さんの家に売家の看板がでた。
ちびちゃんの最期、
藤さんの行き先を思った。

表札のかけかえられた家の前を通ると
ももとななは、まだちびちゃんの匂いを捜している。


朝、通勤バスに乗っていた。
井の頭公園のバス停から、人が乗ってきた。
二十歳前後とおもわれる女学生が、
右手にスポーツバック、左手には大きな紙袋
口にはジャムトーストが。

たおやめの国の、この、たえがたい、憂国。
2月の初め、ぎっくり腰で寝込んだ。
トイレに行こうと、片膝ついて呻く。

それを見て、奥方は言う。
「時代劇ドラマで切られた浪人みたい」

「奥よ、面白いことを言うまじ。
予は腹筋ピクリだけでも苦しいのだぞよ。」
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