水の中にいて渇を叫ぶ

“会社にとって一番大切なのは、金でもなければ設備でもない。それは従業員の心である”とは、ホンダ技研の本田宗一郎のことばであるが、どこでも人材不足を嘆き、社員の能力向上対策に一生懸命である。

それも、従業員の異動は激しく、企業規模は拡大していきつつある状態にあっては、とくに中堅幹部の能力をいかに向上するかが焦眉の急と考えている。
人材がいないのではない。人はいながら、人材はいないといっているのが現状ではなかろうか。

その姿は、洪水の中に飲み水なしというか、水の中にいなから喝を叫ぶ姿そのものである。トップ層は、いますぐ役にたつ人間、あるいは放っておいても自己啓発をして、経営者が期待する仕事をしてくれるような人の不足を訴えているのではなかろうか。

悠然として流れる水を飲用に適する水に変えるのは、それを生かす人の能力であり、知恵である。部下の能力アップをはかるより、だれでもがそのとおりにすれば、立派な仕事ができるような仕事の仕組みをつくるのが経営者の仕事なのである。

子は親の鏡というが、トップ゚の姿勢が問題なのである。親が模範を示す。しつけをする。よい家風をつくることが必要なのだ。
理屈ではない。毎日毎日の現実の仕事のあり方、習慣をどのようにしていくかである。その基本がしっかりしていれば、だれでもが一番よい仕事ができるのだ。

各人の頭で考えさせるのではない。しきたり、しつけをこしらえるのである。たとえば、出退勤管理についてみると、タイム・カードは長に手渡しするとなると、責任者は部下より早く出勤するだろうし、カードの手渡しを通して、朝のあいさつから仕事の打ち合せ、健康状態をも含めて、人員の掌握ができるであろう。

この考え方を、執務のすべてに及ぼしていくことだ。人さえいれば、仕事ができるような仕組みや、システムづくりをするのが各人の能力アップより大切なことであることを知らねばならない。人材不足をいうのは、トップの怠慢といわれてもいたしかたないであろう。

2006.12.06:反田快舟:[経営箴言]

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