【仕事のススメ】7回目『天職』

天職を見つけろと、親や世間は言うけれど、ことはそれほど簡単じゃない。「てんしょく」という音に注目してあれこれ考えてみたら、あら不思議「天職」が見えてきた。


「てんしょく」で岩波国語辞典(1980年版)を引いてみた。出てきたのは「天職」のみ。慌ててインターネットで調べたら、三省堂提供「大辞林 第二版」で「転職」が出てきた。このことからも転職とは比較的新しい言葉だということが分かる。以下は25年後の辞書に載るかもしれない私ハラコーの造語であります。

▼点職
 「点」には「小さい」という意味と「火をつける」の意味がある。「点職」とはさしづめ学生時代に初めて体験するアルバイトのことかもしれませんね。でも、将来の仕事とアルバイトがつながっていると考えている学生は少ない。
3年前の再就職支援セミナーで声が大きく、気持ちの良いお辞儀をする若者がいた。理由を尋ねると、学生時代のアルバイトにルーツがあった。「誰よりも元気な挨拶をしよう」と心掛けて働いたとのこと。彼はセミナーの後、すぐに就職が決まった。「やっぱり!」と思った。アルバイトも、時間の切り売りじゃなく、将来に役立つことを意識して取り組んでみたいものだ。

▼展職
 発展の「展」である。もちろん、「ひろがる。物事が盛んになる」の意味。入社1年後から3年後位までの期間かな。1年目は見るもの聞くもの驚きの連続、ただただ先輩のマネをして、冷や汗をかきかき、仕事を覚えるのに精一杯。2年目、3年目にまとまりのある仕事を任され、周りも見ながら、どんどんと守備範囲が広がっていく。たくさんの失敗や成功を繰り返して、ものすごい勢いで成長を遂げる時期だ。
よく先輩や親が「3年は我慢しろ」というが実はこんな理由があったのだ。でも、「我慢しろ」はないよなぁ。「3年間は我慢するな。思い切り目の前の仕事に取り組め!失敗してもいいから」と言ってあげたい。物事が分かってくると失敗も出来なくなるし、我慢も必要になってくるんだから。

▼転職
 言わずと知れた転職。他社に移ることだ。これまでは「一所懸命」、一旦入社した会社は「勤め上げる」ということが美徳とされていたが、最近はだいぶ変わってきたように思う。環境が変われば、人間は本気になって努力するのも事実。終身雇用の社会的慣行が崩壊した現代では、本当に転職するかどうかは別として、5年に一度は転職するものとして、新しい能力を磨いたり、資格にチャレンジしたり、自己啓発をして備えておきたい。

▼添職
 展職時期を経て、1回目の転職で更に専門分野を深めたら、2回目の転職では新たな専門分野を追加したい。と、言っても全く別な仕事をすると言うことではない。例えば、総務系の仕事を中心にやってきた人は人事系の方も意識して勉強し、担当させてもらおう。システム開発でオープン系の仕事が中心の方だったら、Web系の仕事に幅を広げよう、ということである。添え木をあてて自分の存在をより確かなものにしていくようなイメージでとらえてもらいたい。環境変化にも間違いなく強くなる。

▼伝職
 ここまでくるとダジャレっぽくて恐縮です。でも、自分が学んだこと、身につけたことは人に伝えたいですよね。人に説明する過程で、多くのことを学ぶし、理解が深まります。また、自分の技術やノウハウを人に教えてしまうと、新たなものを学ぼうという気にもなってくるものです。
団塊の世代の方々が来年から2010年にかけて定年を迎えます。ぜひ、伝職を意識して後輩の指導にあたってもらいたいものです。

▼天職
 点職→展職→転職→添職→伝職までくると、「あれっ、この仕事、意外と俺に向いてたのかもしれないなぁ」という思いが湧いて来るときがきます。もしかしたらそれがあなたの「天職」なのかもしれません。ハッキリ言えるのは、やる前から分かるようなしろ物ではないこと。汗水垂らして、あぁでもない、こうでもない、と悩みつつ努力を積んだあげくにたどり着く“感覚”だと思う、きっと。

▼番外編で「手に職」
 早口言葉みたいに10回位繰り返せば「てんしょく」と聞こえてくるよね。んんー、それにしても苦しい・・か。
これまで書いてきたことは主にサラリーマンを意識してのもの。「手に職」という職人さんの道も素晴らしい選択。もちろん、職人さんの場合、「一筋」が大切なのは言うまでもありません。

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TanQ(アイン企画発行)
Vol.15(2006年11月号)に掲載

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