星空の下で(5)

「ところで、平井の密造酒思い出すよな」酒好きの松田が
話し始める。

「静かにあがれよ」平井がそっと声を掛ける物置の二階に
通じる梯子を、アノラックを着たままシーンと静まりかぇった
学校帰りの雪の降りしきる9時40分頃平井の後から私、加藤
松田と足音を偲ばせ、平井の部屋に上る。
目的は平井の実家で作った、ぶどう酒いわゆる当時は、密造酒
の部類である。当然アルコール度も日本酒くらいある。
「今日はたっぷりあるから、遠慮するな」平井はそういって
リットル瓶を持ち出してきた。私は買ってきた干しするめを
鞄から取り出し、口でさきながら新聞紙の上に並べる
それぞれ酒が、好きな連中だが一応歳は行っていても高校生
だから、おおびらに外では飲めないし、又そんな金もない身分
であったから、冬場の平井のこの部屋は、色気こそないが
我々のオアシスであった。現状の日本を語ったり、将来の
自分を語り合ったり結構、高尚な話で盛り上がっていた。
平井の実家は葡萄畑を持っていて、一応農家であるがそんなに
大きな農家でなく、長男の彼は加藤と同じ会社で働いていた
私同様この二人も通信教育を受けていて、同様に新設校に
入学して、初めて通信教育でも仲間であったことを知ったのでした
平井も卒業後は、電気部品メーカーの総務部長まで、昇り
積めたのに、定年前に退職しタクシー会社の社長に就任し
55位で、社長を辞任し静岡の蜂蜜屋に弟子いれし、現在は
独立して蜂箱を車に積んで全国を旅してる変わり者。
「さて平井、ご馳走様」それでは儀式。我々は万年床をはぐり
ドライヤーを片手に熱風を、万年床に吹きつける。
「平井はよ床に入れ、梯子下の電気は消していくから」
平井を置いて、夜の雪道を帰る我々、いつしか雪もやんで
満点の星空が輝き、深夜の冷気が紅葉した頬に心地よかった。

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