リタイヤ

今の今まで、カラオケで得意の歌唱力を私に披露し
酒を楽しんでいた彼が、突然
「来月で定年退職よ、俺趣味無いしなー」ぽつりと
そういって、目を瞑る。
「先輩はいいよなぁー生涯現役でいられるし」
「なにをいっているか、今後は自分の好きな事を見つけて
悠々自適生活が、待っているのじゃないか」
「私など町工場の親父で死ぬまで、仕事ある無しで一喜一憂な
生活で汲々しなければならないのだよ」
「でも世の中に仕事を通じて、役に立っているというプライド
を持ち続ける事ができるんだもの、俺なんか今の職場をはなれると
他の仕事なんか、出来ないもの唯のよけい物にすぎなくなる」
或る夜のスナックでの会話である。
まだまだ元気で、肉体的にも若い世代なのに酒のせいばかりで
なく、私に心中を吐露したのは私が彼よりずーと年上で
住む地域も違い、年に数回しか会う機会がないため、聞かれても
安心感があったのだろうと思う。
今までエリート集団の中で、プライド高く生きてきた彼
今その職場を離れる事に、言い知れぬ不安を感じているのかも
しれない。
人はその年代ごとの"生きがい"をどう自分なりに設定して
心の健康を保ちながら、一生を送るか、どうかで充実した
人生か、不幸な人生かの分かれ道になるような気がする。

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