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中1の担任は体育の教師で、ソフトボール協会の役員をしていた。
夏休み、実業団のソフトボール大会があって、クラスから6人の男子が手伝いをすることになった。
グランド整備の補助をしたり、ベースをとりつけたり、道具を運んだりする。
まだ、スポーツドリンクもクーラーもなかった頃だったから、選手の控え室に大きな氷柱を据えつけたりもした。
入場式ではチーム名の看板を持って案内をしたり、試合がはじまると、ボールボーイもやる。

実業団の女子選手たちは、みんな真っ黒な顔で元気がよく、腕も足も太く、大きなお尻をしていた。
ほとんどは化粧気もなく、まれに口紅を引いているひともいるというような、素顔の一団だった。
わたしが入場式で案内したのは北海道のチームで、話しかけてくる言葉も独特だった。

大会は16チームのトーナメントで、雨降りなどがなければ、4日間で試合を消化する。最後の日は準決勝と決勝のダブルヘッダーになる。

2日目の試合が全部終わった後、南側の選手控え室の掃除に行った。
もう誰もいないと思って入って行くと、まだ選手のねえちゃんたちがいて、隣のシャワー室と行き来して、着替えをしていた。バスタオル巻きの体で歩いているねえちゃんもいた。みんなが一斉に私の方に顔を向けた。中学1年生のわたしは、突然、半裸の女子集団の中に投げ出されていた。

どうすればいいのだろう、と思ってもじもじしていると、4、5人のねえちゃんがそのままわたしのそばに来た。
「君、女性の着替えに入ってきて、行儀よくないね」
「あ、知らなかったんで、すみません」
「わたしたち、この下まだ裸なのよ」バスタオルの上のむき出しの肩で、わたしの肩を押す。
「んー、すみません。帰りますから」頭に血が上って、たぶん、その時わたしの顔は真っ赤。
「仕事しに来たんでしょう。いいよ、仕事して、いいよ」
「あ、いいんですか。でも怒ってないですか」
「いいよなあ、みんなあ」
「いいよに賛成」と言いながら、わたしの髪をくしゃくしゃに撫でるねえちゃん、ドンケツしたねえちゃんもいた。

いいよ、と言ってはくれたが、さすがにわたしは居ずらくて、下を向いて部屋の隅からモッブ拭きを始めた。
「ぼくー」
「おーい、君だよ」
声の方に顔を上げると、パンツ1っ丁のねえちゃんが、ブルンボインを突き出して立っていた。
フリーズしました。

わたしが控え室で遭遇した関東から来たチームは、準々決勝、準決勝と勝ちあがり、決勝まで進んだ。あのこと以来、わたしはそのチームメンバーに顔と名前をおぼえられ、「mくん、応援してね」と声をかけられたりした。同級生の他のボールボーイたちは、何故mだけ人気があるのだろうと不思議がった。

最終日、準決勝の1試合目と2試合目のあいだの時間、わたしがグランドの地べたにすわっていると、あのブルンボインのねえちゃんが来て脇に座った。「ねえ、mくん、今つきあってる女の子いるの」と聞く。「いませんけど」と言うと、「わたしこのまえ、mくんに裸見られたから、もう結婚出来ないかもしれない。そしたら、mくん、将来わたしと結婚してくれる」と、わたしの顔をまっすぐに見る。その場では、結婚というのはため息がでるほど遠いことで、ただうろたえてしまったのだったが、独りになって落ち着くと、年上のねえちゃんがまたわたしを、口ポカ、目が点、体は棒にしてやろうと、からかっているのだなとすぐに分かった。

関東から来たチームは決勝で敗れた。

大型バスの窓から顔を出して、関東に帰るチームのねえちゃんたちが「mくーん」とわたしの名前を呼んで手を振っていた。
わたしと、この経過の秘密をうちあけた親友とふたりで
「ケツデカオンナー」
「ロケットオッパイー」と叫んでアカンベーをすると、バスの中で集団の大笑いがはじけた。


2007.10.14:higetono:count(1,535):[メモ/やれやれ]
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