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銀行で用件をすませてから会社に向かうと、品川駅で京急線に乗るのは10時を少し過ぎてしまう。その時間の電車はもう空いていて、のぞくと隣の車輌の様子もよく見える。

電車が品川駅を発車して間もなく、カーンカーンカーンと金属を打つ大きな音が隣の車輌から聞こえた。隣の車輌をのぞいて見ると、乗降口のドアそばに、背丈の小さな黒いコートを着た老人がステッキを持って立っていた。いつも聞いたことがない先刻の金属音は、どうやらそこから発したらしく、ステッキを持った老人は周囲の注目を浴びていた。老人は紅潮した顔をうつむけて何かブツブツつぶやいているようだった。

わたしは品川から2つ目の駅で降りる。
1番先頭の車輌の1番前のドアから降りるのが、その駅の改札口に近いので、急いでいる人たちは先頭の車輌に移ってくる。ステッキを持った老人も隣から歩いてきて、乗降口のドアのそばで私の前に立った。
電車が駅に着いてドアが開くと、乗車を待つ中年の恰幅の良い女性が、黒い革のバッグを持って立っていた。乗車と降車と、バッグを持った女性とステッキを持った老人がドアのところですれ違ったとき、パーンと音がして、女性が悲鳴をあげた。

わたしは見た。背丈の小さな老人が流れるような動作で、ステッキを振って打ったのを。

黒いコートの老人の後姿は、ホームの人たちを追い越しながら足早に遠ざかって行く。電車もドアを閉めて同じ方向に去って行った。乗り降りの瞬時に起きたことに気付いた人は、何人もいなかった。

改札口から道路に出て右方向を見ると、背丈の小さな老人は、ほとんど走る速さで国道の方へ向かっていた。持っているステッキで体を支えることなどは1度もなかった。

別の日に何度かわたしはこの老人を電車で見かけた。ある日は、駅の階段の手摺を激しく打ったのを見た。また別の日には、幼児の目の前で威嚇するようにステッキを振って驚かせていた。ホームで女性に追い越されたときには、後ろから切りつける空振りの動作をして、周りのひとを気味悪がらせた。
遠く離れて眺めた外観は映画の中で観るチャップリンに似ていたが、その外観に反して危険な老人だった。ステッキは身体補助具ではなく、暴力的な威嚇のための道具として持ち歩いているようだった。

2007.02.28:higetono:count(1,425):[メモ/やれやれ]
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