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お地蔵様が落ちてきた
『涙を、獅子のたてがみに』という映画の一場面をよく思い浮かべた。
終わりの場面かもしれない。
若い女性が海辺に立って、彼方を見ている。
夏の雲が流れ、水平線を船が行き来し、
しだいに暮れなずんで行く中に、女性はいつまでも立ち尽くしている。
その情景が担っていた感情を考えてみたこともある。
時がながれて行っても固定されている悲しみ、私はそう思っている。
可憐だった加賀まりこ。
言葉をどう繋げばいいか困るが、そこにドスンとお地蔵様が落ちて来た、
加賀まりこが動けなかった位置に。
あの、砂の上にあるお地蔵様を見に行こうよ、と奥方が言う。
私は二頭の犬のリードを離して、
ももちゃんぐむ、ななちゃんぐむ、走るぞ、と声をかける。
これ、可愛いね、お地蔵様と並んで立って奥方が言う。
ご当地キティみたいだね、と私が答える。
ももとななは、熱心に足元の匂いをかいでいる。
そういえば、キティちゃんのモデルが加賀まりこだったっていうのは、
有名なはなしよね。それって、団塊のつくった都市伝説?。
いま何時、わたしが訊くと
ソウネダイタイネ、奥方は『渚のシンドバッド』を歌いだす。
カラオケは不得意なくせに。
音楽と官能と味覚はいたずらな三人姉妹で、多くを費やして悔いることなく、
誰かが私を味見している。
チャングムの美しいイ・ヨンエは、一時味覚をうしなってしまって、多くの苦難を
小さなふたつの舌が、額と喉をなめている。
こらこら、耳のなかまでなめるんじゃない。
わかった、わかった、
何が。永遠が。
海と溶け合うお地蔵様が。
解題『考エゴトヲシテイルウチ、ウトウト夢ノナカニ。オ嬢犬タチニナメラレテ、現ヘ』
2006.04.11:
higetono
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