吉村 昭 (河出書房新社 2011年)
今まで、単行本に未収録のエッセイ集。
著者の徹底した取材による、史実をもとにした作品は定評がある。
のだが、じつはまだ読んだことがなくて、エッセイしか読んだことがない。
いつかは…、と思うのだが、それはいつになるのやら。
このエッセイ集は、タイトルにあるように、自らの生い立ちや家族について、書いたものだ。
1927年(昭和2年)の生まれということで、子どもから学生の時代を第二次世界大戦前と戦中を過ごし、肺結核で死の一歩手前で当時としては難しい手術を受けて生き延びる。
この体験は著者にとって、その後の人生に大きな影響を与えていると感じられる。
それは「『保健同人』と私」で詳しく書いている。
聞いたこともない『保健同人』(『暮らしと健康』という雑誌の昔の題名らしい)についてのことである。
中学二年生の折りに肋膜炎に罹って以来、その後、結核菌に肺を蝕まれるようになり、終戦後の昭和二十二年にとうとう重症の肺結核患者になってしまった。
当時、有効な治療法もなく、ひたすら絶対安静にして自然治癒を待つほかない状態だった。
しかし、病状はさらに悪化し、死が近いことを意識することになる。
そこで、兄が持参した『保健同人』読み、肺結核の新治療法として外科手術が紹介されている記事を読む。
結局、その記事を読んだことから、当時ほとんど手術を受けることになり、命は助かった。
このことがなければ、その後の吉村作品はなかった(であろう)はずである。
著者個人としては、仕事上、なにもつながりのないこの雑誌に、このエッセイを書いて記しているというあたりに、著者の律儀さが表れているではないか。
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