ことえ老技抄

ことえ老技抄
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にゃん太郎は音の聞こえるほうへ歩いていきます。


てってってってっ……

こてっ

てってってっ…

こてっ


右後ろ足、不自由なのかな。


みゃーみゃー


助けを求めてるんだ。
何もわからなくて。
からだの自由もきかなくて。


『…こいつ、食べられちゃうよ、きっと。』

『え…』

『親猫に。』

『ウソ!!そんなことしないよ!!!』

『目もみえなくて、足もわるいから、育てられないだろ。』

『ウソだぁ!!かわいそうだよ、…そんなことして。』

『のらねこだから、そういうこともあるんだよ。』

『…』

『生きのこれないってわかるからには、悲しいけどしょうがないんだよ。』

『…』

『だから今にゃん太郎といっぱい遊んであげなな。』

『…うん。』




にゃん太郎は
遊んでもらってるなんてこと
わからないだろうな。

にゃん太郎は
精一杯生きようとしているんだ。

いつ自分が死ぬかもわからないで、
けれど、明日も生きようとがんばっている。

生き物の本能で。




にゃん太郎は星になってしまいました。

彼は生まれつき目が悪く、
音だけでこの世界を知っていました。

音のする方へ、振動の伝わるほうへしか、動けません。
精一杯の声で鳴き、自分はここだと教えているのでした。


みゃー

みゃー

みゃー


ミルクを飲もうとしてもどこにお皿があるのかわかりません。
『ちがうよ、にゃん太郎。』
一生懸命地面を舐めるにゃん太郎。

『ちがうってば…』

にゃん太郎はまだ一生懸命地面を舐めています。

おいしい匂いはするのに、
ミルクがどこにあるかわからないんだ。
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