「アイデンティティ」

私のアイデンティティという場合、「私は私であって他の何ものでもない」ことが、自分自身によく納得できるということであろう。

しかし、「私とは何か」と考え出すとよくわからなくなるものだ。
この問題を身体のこととして考えてみると、臓器移植のときに強い拒絶反応が生じることはよく知られている。

これは人間の身体が「自己」と「非自己」をよく区別しており、自分以外のものを拒絶する働きをもっているからである。このような働きをするのが免疫である。多田富雄著「免疫の意味論」には極めてショッキングな事実が紹介されている。

受精後三日後ほどのニワトリとウズラの卵を使い、胚の神経管の一部を入れ替えて、ニワトリのひよこだが羽だけはウズラという鳥をつくり出す。しかし、生後三週間から三ヶ月もすると、羽がマヒして動かなくなる。ニワトリの免疫系が働いてウズラの羽を拒否したのである。

そこで次にニワトリにウズラの脳を移植すると、生後十数日で、ウズラの脳はニワトリの免疫系に拒否されて死んでしまう。つまり、「身体的に『自己』を規定しているのは免疫系であって脳ではない」のである。

こんなことを知ると「私のアイデンティティ」ということについて考え込まされ、単純な考え方ではダメだと強い反省をうながされる。

(「おはなしおはなし」より)
2006.10.14:反田快舟:[仕事の流儀]

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