「前のめりであれ」という信念は、起業直後の苦しい日々のなかで生まれた。
南場は、大学を卒業後、外資系のコンサルティング会社に入社。
ITビジネスのコンサルティングで目覚ましい業績を上げ日本法人の役員に上り詰めた。
しかし、あるコンプレックスがくすぶっていた。
「血ヘドを吐いたことがない」
コンサルタントの腕の見せ所は、事業計画の立案。
だが、仕事の醍醐味は、それを実現させる現場にあるのではないか。
36歳のとき、一つのアイデアを胸に起業に踏み切った。
日本ではなじみの薄かったインターネットオークション。
しかし、現実は甘くなかった。
まず計画が不十分と、出資者から待ったがかかった。
新たに計画を練り直したが、今度はサイトの設計に手間取り、また延期。
その間に、大手企業が華々しくインターネットオークションを始めた。
必死で準備をすすめた矢先にまた事件は起きた。
外部に発注していたプログラムが、手違いでまったくの白紙状態だったのだ。
「嘘でしょ、嘘でしょ、絶対に嘘でしょ?」
これ以上開設が遅れれば投資家の信用を失う。
そうなれば会社は終わりだ。
そのとき一人の技術者がいった。「ユーザーからの出品機能を諦めれば、間に合うかもしれない」
しかし、出品ができないオークションなどあり得ない。
一人の投資家からメールが届いた。
「この事態をどう乗り越えるのか、すべての投資家が見ています」
南場は攻めるしかないと思った。一つだけ方法があった。
ユーザーからの出品は間に合わないが、運営者の自分たちは直接データを書き込んで出品できる。
全員で、サイトに並べる商品を探しに飛び出した。
ただ前のめりに走り続け、一ケ月で400余りの商品をかき集めた。
ようやくビジネスが動き始めた。
南場に一つの確信が生まれていた。
苦しい時こそ、前のめりであれ。
(プロフェッショナル仕事の流儀15 File No.43より)
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