攻めなければ道は開けない

カレンの死後まもなく、メスのセイウチの「ムック」が感染症に侵された。
牙から細菌が入り、化膿していた。

牙を抜かなければ、膿が脳に達し、命にかかわる。
しかし、セイウチの手術は、日本で行われた例がなかった。

「やるしかないっていうのは、自分で決めました。
 カレンの死を経て、獣医として覚悟ができたんだと思います」

最大の問題は、麻酔の注射を静脈に打ち込むこと。
静脈は、厚い脂肪に覆われた背骨の中を走る。
1センチでも目測を誤れば、神経を傷つけ障害が残る恐れがある。

注射針を何回打っても当たらない。何本も刺しては捨て、刺しては捨て・・・・。必死だった。
もうこのまま終わるのか。諦めかけた、そのとき。針が静脈に通じた。麻酔は成功。

よほどガスが溜まっていたのか、「スポーン」という大きな音とともに、膿んでいた牙が抜けた。
術後間もなく、ムックは自分で餌を食べるまでに回復した。

攻めなければ道は開けない。
その覚悟をもつことが海獣医師の責任だと勝俣さんは悟った。

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
2009.01.17:反田快舟:[仕事の流儀]

この記事へのコメントはこちら

※このコメントを編集・削除するためのパスワードです。
※半角英数字4文字で入力して下さい。記号は使用できません。