五年目には、とうとう木が枯れ始めた。
六年目の夏、万策尽きた木村さんは死に場所を探して、一人岩木山に向かった。
突然、視界にりんごの木が飛び込んできた。目を凝らすと、枝ぶりの似たドングリの木だった。
ふと思った。なぜ農薬をかけていないのに、自然の木には病気もなく、害虫もいないのか。
夢中になって根元を掘り起こした。土は驚くほど柔らかかった。
「もう直感しました。これを再現しようと。再現すれば、りんごは実るんだと」
りんごを育てることより、あの柔らかい自然の土をつくることだけを考えた。
八年目の春、近所の知り合いが駆け込んできた。
「木村、畑に行ってみろ」
白く可憐なりんごの花が、畑を埋め尽くしていた。
涙があふれて止まらなかった。
そのとき木村さんは気づいた。
花を咲かせたのは、自分ではない。りんごが自ら、力を振り絞って咲いたのだ。
「主人公はりんご」。それが木村さんの信念となった。
(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.35より)
この記事へのコメントはこちら