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ターニングポイント・絶望の淵で見たドングリの木

高度経済成長の時代。木村さんは農薬と化学肥料に頼る大規模農業を目指した。
しかし、妻とともに、農薬による炎症に悩まされ始めた。

ある日、立ち寄った書店で、一冊の本に出合う。
農薬も肥料も一切使わない、自然農法の本だった。

木村さんは、この方法でりんごをつくろうと決めた。
二か月が経ったころ、りんご畑におびただしい害虫が発生した。
さらに、病気が追い打ちをかけ、秋にはすべての葉が落ちた。

一年経ち、二年経ち、さらに四年経っても、実はおろか花さえ咲かなかった。
りんごが採れなければ収入はない。

生活費を稼ぐために、キャバレーの呼び込みをやった。
雑草を食べ、食費も切り詰めた。

心の中で、二人の自分が葛藤していた。
「もう諦めろ」という自分と、「もう少しの辛抱だ」という自分。

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File NO.35より)
2009.01.02:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]

いかにして経済的に成り立たせるか

この仕事を始める前は、りんごを実らせるだけではなく、どこで買ってもらえるかまで考えなければなりませんでした。
まずは、りんごを実らせてみようと、階段を上がるような気持ちでやってきたんです。

経済的には、売上金額は重要ですが、そこから費用を差し引いて残る金額を大きくできれば持続できるのではないかと考えました。
私の場合は、手作業で用が足りているし、働き手も家族だけだから、コストはよその数割でしょう。

それに、生産量は一般の八割ですが、虫や鳥による被害が少ないのでカバーできています。
どんなすぐれた栽培方法でも、それで生活ができなければ続けることができません。

しかし、このやり方で経済的にも軌道に乗せられることがわかった。
いまでは、この栽培方法をみなさんにお勧めしているわけです。

By木村秋則

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.35より)
2009.01.01:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]

なぜりんごが甘くなるのか

やはり、肥料を使わないからでしょうか。
人為的に養分を与えないことで、根が縦横無尽に伸びて、
養分を求めた結果なのではないかと思います。

肥料も農薬も使わず、それでいて虫がつかないようにするなは大変ですが、
どうしたらそれをクリアできるかと、知恵を振り絞っていくしかない。

私のやり方で栽培すると、甘いものはより甘く、酸っぱいものはより酸っぱく、
辛いものはより辛くなります。
植物の個性が際立つ、という感じです。

By木村秋則

(プロフェッショナル仕事の流儀12 File No35より)
2008.12.31:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]

複雑系の利点

木村さんの畑には、他の植物もいっぱいあり、「複雑系」とでもいうべき様相だ。

やはり、植物の根が大事なんだと思うんです。
いろいろな雑草が生えているからバランスがとれるのではないか、と。
多種多様の雑菌が生息できるための役割を担っているのが雑草ではないでしょうか。

従来は、生産のために不要なものはすべてなくしていく発想でしたね。
益虫であれ、害虫であれ、農薬で駆除してしまうことは、自然の生態系とはほど遠いものだったのです。

By木村秋則

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.35より)
2008.12.30:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]

りんごの木に話しかける理由

りんごの木に初めて話しかけたのは、自分の知りうる限りのあの手この手を尽くしたけれど、何も答えがなくなって、もうどうしようもなくなった時でした。

いつの間にか、自然に話しかけていたんです。
りんごの木に、自分の無力をお詫びする気持ちでした。

今では、肥料も農薬も使わないのに、りんごを実らせてくれる「木の頑張り」に対する感謝の気持ちで話しかけています。

By木村秋則

(プロフェッショナル仕事の流儀12 File No.35より)
2008.12.29:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]