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攻めなければ道は開けない

カレンの死後まもなく、メスのセイウチの「ムック」が感染症に侵された。
牙から細菌が入り、化膿していた。

牙を抜かなければ、膿が脳に達し、命にかかわる。
しかし、セイウチの手術は、日本で行われた例がなかった。

「やるしかないっていうのは、自分で決めました。
 カレンの死を経て、獣医として覚悟ができたんだと思います」

最大の問題は、麻酔の注射を静脈に打ち込むこと。
静脈は、厚い脂肪に覆われた背骨の中を走る。
1センチでも目測を誤れば、神経を傷つけ障害が残る恐れがある。

注射針を何回打っても当たらない。何本も刺しては捨て、刺しては捨て・・・・。必死だった。
もうこのまま終わるのか。諦めかけた、そのとき。針が静脈に通じた。麻酔は成功。

よほどガスが溜まっていたのか、「スポーン」という大きな音とともに、膿んでいた牙が抜けた。
術後間もなく、ムックは自分で餌を食べるまでに回復した。

攻めなければ道は開けない。
その覚悟をもつことが海獣医師の責任だと勝俣さんは悟った。

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
2009.01.17:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]

勝俣悦子のターニングポイント

「覚悟をもって、攻める」
海獣医師・勝俣悦子の流儀は忘れられない失敗から生まれた。

アイスランドからやってきたシャチの「カレン」。
日本の夏に弱く、気温が上がるたびに体調を崩し、病気がちだった。

10年の冬、カレンがまた体調を崩した。
勝俣は、またいつもの感染症と診断して、投薬を始めた。

しかし、カレンは具合がよくなったと思うと、また元気がなくなる。
薬が効いているのか、効いていないのか、若い勝俣には判断がつかない。

迷いの中で、そのまま治療を続けた。よくなっていると信じたかった。
4ヶ月後のことだった。カレンの容態が急変し、息を引き取った。
よくなっているだろうという甘い希望が、必要な治療を遅らせ、手遅れとなった。

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
2009.01.16:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]

消去法による意思決定

海獣の治療は、本当に難しい。
一番の理由は、わかっていない部分がとても多いということ。

「こういう状態だから、こうしなければならない」と判断できることが少ないんです。
それでもどうにかしなければいけないので、よく消去法を使います。
「これとこれとこれが考えられる。たぶんこれは違うだろう。これも・・・。」と考えていって、
最後に残った方法で処置を始めるわけです。

それでも、決めた次の瞬間に、違うと思って方針をがらっと変えることもあります。
朝令暮改どころではありません。

そんな経験を積むに従って、病気いになっても早いうちに対応すること、
さらには病気にしないことが得策であるとわかってきたんです。
今では、予防的な部分に力を注ぐようになっています。

By勝俣悦子

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
2009.01.15:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]

決断を早くする

ちょと様子を見ようとしたり、躊躇したりすると動物の具合はどんどん悪くなります。
先手必勝ですね。調子が悪いとわかったときは、すぐに対処するのが一番いいと判断しています。

その時には、動物に負担が大きいかもしれませんが、結果的に治りは早いですね。
何だか変だと気付いたときは、絶対におかしいのです。
様子を見るのではなく、何かをしてみることが一番です。

By勝俣悦子

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
2009.01.14:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]

家庭と仕事を両立させるには

子どもが小さい時は、やはり大変でした。
会社が早く帰宅することを認めてくれたこともあって、どうにか続けられたのではないかと思っています。

私は、家に帰るとパッと気持が切り替わるんです。
仕事中は、すごい恰好でシャチの処置をしたりしていても、着替えて買い物に出たら、「あら奥さん」などと言っている。

そんな自分が面白いなと思うんです。
まったく別質の世界を二つ持っているわけですからね。

By勝俣悦子

(プロフェッショナル仕事の流儀13 File NO.36より)
2009.01.13:反田快舟:コメント(0):[仕事の流儀]