カレンの死後まもなく、メスのセイウチの「ムック」が感染症に侵された。
牙から細菌が入り、化膿していた。
牙を抜かなければ、膿が脳に達し、命にかかわる。
しかし、セイウチの手術は、日本で行われた例がなかった。
「やるしかないっていうのは、自分で決めました。
カレンの死を経て、獣医として覚悟ができたんだと思います」
最大の問題は、麻酔の注射を静脈に打ち込むこと。
静脈は、厚い脂肪に覆われた背骨の中を走る。
1センチでも目測を誤れば、神経を傷つけ障害が残る恐れがある。
注射針を何回打っても当たらない。何本も刺しては捨て、刺しては捨て・・・・。必死だった。
もうこのまま終わるのか。諦めかけた、そのとき。針が静脈に通じた。麻酔は成功。
よほどガスが溜まっていたのか、「スポーン」という大きな音とともに、膿んでいた牙が抜けた。
術後間もなく、ムックは自分で餌を食べるまでに回復した。
攻めなければ道は開けない。
その覚悟をもつことが海獣医師の責任だと勝俣さんは悟った。
(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
HOME > 仕事の流儀
勝俣悦子のターニングポイント
「覚悟をもって、攻める」
海獣医師・勝俣悦子の流儀は忘れられない失敗から生まれた。
アイスランドからやってきたシャチの「カレン」。
日本の夏に弱く、気温が上がるたびに体調を崩し、病気がちだった。
10年の冬、カレンがまた体調を崩した。
勝俣は、またいつもの感染症と診断して、投薬を始めた。
しかし、カレンは具合がよくなったと思うと、また元気がなくなる。
薬が効いているのか、効いていないのか、若い勝俣には判断がつかない。
迷いの中で、そのまま治療を続けた。よくなっていると信じたかった。
4ヶ月後のことだった。カレンの容態が急変し、息を引き取った。
よくなっているだろうという甘い希望が、必要な治療を遅らせ、手遅れとなった。
(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
海獣医師・勝俣悦子の流儀は忘れられない失敗から生まれた。
アイスランドからやってきたシャチの「カレン」。
日本の夏に弱く、気温が上がるたびに体調を崩し、病気がちだった。
10年の冬、カレンがまた体調を崩した。
勝俣は、またいつもの感染症と診断して、投薬を始めた。
しかし、カレンは具合がよくなったと思うと、また元気がなくなる。
薬が効いているのか、効いていないのか、若い勝俣には判断がつかない。
迷いの中で、そのまま治療を続けた。よくなっていると信じたかった。
4ヶ月後のことだった。カレンの容態が急変し、息を引き取った。
よくなっているだろうという甘い希望が、必要な治療を遅らせ、手遅れとなった。
(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
消去法による意思決定
海獣の治療は、本当に難しい。
一番の理由は、わかっていない部分がとても多いということ。
「こういう状態だから、こうしなければならない」と判断できることが少ないんです。
それでもどうにかしなければいけないので、よく消去法を使います。
「これとこれとこれが考えられる。たぶんこれは違うだろう。これも・・・。」と考えていって、
最後に残った方法で処置を始めるわけです。
それでも、決めた次の瞬間に、違うと思って方針をがらっと変えることもあります。
朝令暮改どころではありません。
そんな経験を積むに従って、病気いになっても早いうちに対応すること、
さらには病気にしないことが得策であるとわかってきたんです。
今では、予防的な部分に力を注ぐようになっています。
By勝俣悦子
(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)
一番の理由は、わかっていない部分がとても多いということ。
「こういう状態だから、こうしなければならない」と判断できることが少ないんです。
それでもどうにかしなければいけないので、よく消去法を使います。
「これとこれとこれが考えられる。たぶんこれは違うだろう。これも・・・。」と考えていって、
最後に残った方法で処置を始めるわけです。
それでも、決めた次の瞬間に、違うと思って方針をがらっと変えることもあります。
朝令暮改どころではありません。
そんな経験を積むに従って、病気いになっても早いうちに対応すること、
さらには病気にしないことが得策であるとわかってきたんです。
今では、予防的な部分に力を注ぐようになっています。
By勝俣悦子
(プロフェッショナル仕事の流儀13 File No.36より)