花巻市の看板政策のひとつ「関係人口」創出の補助金を受けている民間企業が誇大広告ならぬ、宮沢賢治の作品の誤記を指摘されながら、修正を怠ったままであることが明らかになった。当該企業は生産者と消費者をつなぐ「ポケットマルシェ」(ポケマル)を運営する「(株)雨風太陽」(本社・花巻市、高橋博之社長)で、今年2月に拠点となる「HANAMAKI BASE」を市内中心部にオープンさせた。ミーティングルームや作業スペース、キッチン、宿泊施設などが完備している。
「花巻が生んだ偉人、宮沢賢治の『農民芸術概論綱要』の中に、『都人(みやこびと)よ来(きた)ってわれらに交(まじ)れ』という一節があります。都市と地方の分断を解消し、共に手を取り合って生きることの大切さを伝えています。『HANAMAKI BASE』は、まさにこのことを具現化していくための拠点になります」―
高橋社長は会社案内(HP)にこう書き、以下のように続けている。「朝7時、『HANAMAKI BASE』から徒歩3分のところにある花巻市役所から、時刻を知らせるチャイムの代わりに、宮沢賢治が作詞作曲した『精神歌』、そして夜7時には『星めぐりの歌』のメロディーが流れます。客室の名前(筆者注=ジョバンニ、カムパネルラ、クランボン、ゴーシュ)は、宮沢賢治の作品『銀河鉄道の夜』、『セロ弾きのゴーシュ』、『やまなし』の登場人物名になっています」
文中の「精神歌」は正式には「花巻農学校精神歌」。賢治が当時、“桑っこ大学”と呼ばれていた「稗貫農学校」(現、県立花巻農業高校)の教師時代の大正11(1922)年2月、校歌を持たなかった生徒たちのために作詞した。先の文中では作曲も賢治とされているが、実際には同僚教師から紹介された盛岡高等農林学校(現、岩手大学)の学生、「川村悟郎」が曲をつけたという説が宮沢賢治学会など研究者の間の定説となっている。二人は宿直室でベビーオルガンを弾きながら、「詞曲」のハーモニー合わせに没頭したというエピソードが伝えられている。
「日ハ君臨シ カガヤキハ/白金ノアメ ソソギタリ/ワレラハ黒キ ツチニ俯シ/マコトノクサノ タネマケリ…」―。詩と旋律とが見事なまでに融合したこの歌はいまでは、“市民歌”としても歌い継がれている。「賢治ゆかりのこの地こそが、賢治精神を詰め込んだ図書館に最もふさわしいのではないか」。一方では精神歌が誕生したこの旧稗貫農学校跡地(元総合花巻病院)が新図書館の有力な立地候補地として浮上したが、市側は市民が渇望(かつぼう)する“民意”を無視する形で、駅前立地を強行しつつある。
「二地域居住や関係人口の創出を図るため、イベント等を開催するほか、市内民間施設を活用した『(仮称)花巻市関係人口おためし居住』」―という謳い文句で、市議会6月定例会は「移住定住促進等対策事業費」として、5,463千円を予算を議決した。これを受けて市側は今月8日にワークショップ「二地域居住・お試し居住を考える」を開催。高橋社長も「二地域居住って、なあに」と題するミニトークに参加する予定になっている。
ところで、先の市議会議員選挙(7月26日投開票)で初当選した葛巻徹議員(会派「緑の風」)自らが社長を務める「(株)Pサポ東北」の事務所所も「HANAMAKI BASE」内に置かれている。「精神歌は人口に膾炙(かいしゃ)し、今では世界中で歌われている」という趣旨を込め、私は葛巻議員に対し「単なる誤記では済まされない。すみやかな訂正と賢治精神の学び直し」―を求めるメールを当選直後に送った。「(高橋社長に)伝えます」という返信があったものの8月5日現在、まだ「作詞作曲」のまま放置されている。ちなみに、葛巻議員は今年1月の市長選にも挑戦したが、その際の公約には賢治とのゆかりも薄い“駅前図書館”の実現を掲げていた。
「星めぐりコイン」や「黒ぶだう牛」、「雨ニモマケズ」体験セットなどなど、ふるさと納税(イーハトーブ花巻応援寄付金)の返礼品の中には賢治関連が圧倒的に多い。高橋社長が手がける「ポケマル」ふるさと納税もそのひとつである。令和5年度の寄付金総額は約90億6千万円で、全国13位(県内ではトップ)の座を射止めた。こうしたふるさと納税にあり方については、賢治ファンなどから「賢治」を利権として利用したある種の“官製”詐欺ではないかという厳しい声も聞かれる。
世界に誇るイーハトーブ(賢治命名の理想郷)の「レガシー」(遺産)を弄(もてあそ)ぶような愚(ぐ)だけは厳に慎まなければならない。
(写真は「関係人口」創出の拠点「HANAMAKI BASE」=花巻市仲町で)





