新入生のみなさん、山形工科短期大学校第二十四期生としての入学、心よりお祝い申し上げます。
本日は、みなさんの入学を共に祝って頂く筈のご来賓が同席出来ず、また保護者の皆さまにもご不便をおかけして申し訳なく思います。現在の社会情勢を踏まえ、やむを得ないこととはいえ、折角の機会がこのような形になったことは誠に残念であります。事態は未だに収束せず、先の見えない中で新入生の中には不安を抱かれている方もいらっしゃると思います。しかし、一方で、新入生のみなさんはこれから新たな学びと生活が始まると心を躍らせている筈であり、その想いに派遣企業、我々教職員ともども、しっかり応えていきたいと改めて決意しておるところであります。どうぞ快適な住環境を提供するための知識・技術をしっかりと学び、実りある二年間にして下さい。我々は全力で支援致します。
さて、みなさんがこれから生活される長井市は人口二万七千の一地方都市ではありますが、二〇一八年の二月に国の文化財「重要文化的景観」に選ばれるほど、歴史的資源に恵まれています。江戸時代からの商人のお店や洋風建築などがあり、趣のあるまちなみです。何れ見学会を行いますので期待していて下さい。そして、この地域全般を置賜といいますが、置賜も歴史的な建物が多く残っています。そのうちの一つ、米沢市にある通称"笹野観音堂"というお寺の建物を先日、調べる機会がありました。この観音堂は、天保一四年(西暦一八四三)、江戸時代末期に建てられたもので、一辺十メートル四方と大型で、屋根は茅で立派に葺いていて、また作りの細かい彫刻がたくさん付いているという非常に特徴的な建物です。これも何れみなさんと見に行けたらと思います。ところでこのお堂は、安永7年(一七七九)に米沢藩主として有名な上杉鷹山が建てた観音堂が火災で焼失したために改めて建て替えられたものです。焼けてから再建されるまで十年かかりました。なぜそんなに時間がかかったのでしょう。実は、焼けた当時は天保の飢饉で全国的にも大変な時期で、ここ米沢藩も金銭的に全く余裕がありませんでした。しかし、まず準備に四年をかけて、建築用材を寄進してもらったり、普段なら使用しない樹木を使ったり、お寺さんを始め、大商人から一般庶民に至るまで置賜一円から寄附を募って今のお金で一億円近くを集めるなど、大変な努力をしてやっと建立にこぎつけたのです。関わった職人や棟梁達の名前も記録に残っています。しっかりとした構造で装飾も多い建物ですから棟梁達も相当の手間暇を掛けたので、建築費もかなりの額になりました。そのままだと棟梁達としては大変儲かったと思います。ですが、彼らはもらうべきお金から一部を建築費に寄附しているのです。なぜでしょうか。現代的な割引きサービスというのとはちょっと色合いが違うでしょう。この観音堂は、平安時代に遡るとされる程由緒が古く、米沢藩にとっても、そして地域の住民にとっても心のよりどころだったようです。そのような建物の建築に携われること自体が棟梁達にとっては意味のあることだったのでしょう。仕事をして"もらえるお金"以上に、人々のためになる"仕事そのもの"に価値を見いだす。現代の我々も学ぶべき事が多いですが、特にものづくりを目指すみなさんにおいては、このような考え方を大切にして欲しいと思います。そして、是非、みなさんが作った建物や家具を使ってとても良かったという言葉を頂けるようなものづくりを目指して下さい。
皆さんの二年間の成長に期待しつつ、その第一歩となる今日の良き日を改めてお祝い申し上げます。
令和二年四月三日
山形工科短期大学校 学校長 小幡知之
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