相撲の力士が身につける化粧回しの裏側をご存知か?
表は見た事あるが、裏を詳しく見た方は少ないだろう。
獅子舞いの角力姿の役割が、長井の総宮神社系獅子舞や白鷹の獅子舞に1人及び2人の場合も
いて、警固と呼ぶところもある。
そもそもは角力(すもう)が獅子を司り制御する唯一の役割と聞いている。
神聖な獅子に酔っぱらいが触ろうとしたりすると、頭(リーダー役)が血相を変えて遮るのも
その為である。部外者に獅子に妨害を加えられるのはタブー視されている。
警固及び角力の化粧回しのデザインは、各神社毎に醜名や神社名や神社紋が入ったり様々。
大相撲のプロのお相撲さん級の本格的な化粧まわしもあれば、手作りの控えめのまわしもあ
る。
注文は大抵、呉服店を通して京都に特注するのが筋である。
当工房では今回、工房歴史上に無い本格的な獅子舞い用の化粧回しを制作している。
本格的な手刺繍まではいかないが、京都の職人の制作する金糸を用いた縄や網、下の縄のれん
の様な馬簾(ばれん)とかフレンジと呼ばれるものが、高価で手間の掛かる部材である。
その部材を仕入れての制作である。
厚手の生地は絹の染め物や、金糸の入った金襴織物。その生地に手作業で醜名や神社紋を刺繍
する。
絵柄や文字の図案を入力し、今では自由にコンピューター刺繍ミシンで制作出来る様になっ
た。
先日とある神社の見事な化粧回しを拝見出来た。
祭が終わったばかりで、角力の自宅で陰干しの養生中の噂をきいて、ナイスなタイミングで
ちゃっかりお邪魔したのだ。
床の間に拡げた化粧まわしを裏返し、縫製の塩梅を探る・・・。
金の縄を二重に連結したものが本体の生地にどう縫い込んでいるか? 裏側の処理はどうなっ
ているのかが分かる。金糸が解れて交換した金の縄に手縫いの痕が残っていた。
その縄の端にネットが被されて処理されている。その出っ張り部分が角力の足に擦れて怪我す
るそうで、その生々しい傷跡を見せてくれた。
その部分には先代の角力の苦悩痕の勲章も残されていた。
化粧回しを付けて獅子と対峙する際の、隠れた苦労ぶりが伺える。
先代の角力はそれ以後、当りそうな部分にサボーターを付けて対処したらしい。
雨の日は裾の金馬簾に泥が付かない様に化粧回しを上げ気味に着付けし直すとか。
その泥をクリーニングするための歯ブラシも桐の収納箱に用意されて万端である。
隠居した化粧回しの醜名を刺繍した部分がほつれ、内部の下地が顔を覗かせていた。
刺繍を立体的に見せる為に、ぶ厚いフェルト状の布を文字の形に縫い込んで膨らませて
居る様だ。
さーて 出物腫れ物所選ばす・・下世話だが気になる小用の場合はどうするか?
注(参考写真無し)
角力の沽券に関わるので、まさかの立ちションは御法度なので場所は休憩場所の獅子宿
となる。
まず角力本人はキツク締め込んだマワシから小水の出口を引っ張り出し用を足す。
これが第一の難関。おのずと第二の難関は元の位置にリターンする事だろう。
両側から2人の協力者が回しを支え、決して濡れぬ様確保する。
もう1人後ろで、その作業を邪魔されぬ様に人払いする役割が付くそうだ。
聞きづらい事だが、大の場合はどうするのか?
その場合は諦めて全裸になり用を済ませ、最初からやり直し。
着付けは、なんと10人掛かりで40分も掛かるそうで、大腸急変無き様に角力は暴飲暴食
は慎み、この日の為に体調を整えるそうである。
この大変さに前掛け式の化粧回しが登場することになる。
今は見られなくなったが、昔の八百屋や酒屋が腰につけていた帆布の前掛けのような構造
である。
それに帯を巻くと従来の化粧回しと一見変わらない。
しかし、その角力の重責ある自覚の印である回しを付けるという、覚悟と意気込みが違ってく
る。
とある神社の化粧回しの裏には決して表に現れぬ男気が隠れていた。
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