おせきの物語 ③

第一幕
 舞台の下手より、手に手に鍬や鋤を持ち、笑い声を立てながら、源右エ門、村人がやってくる。背景には、葉山の山並みが照らされ、敬虔で荘厳な姿を映し出している。

【源右エ門】  いやあ、皆の衆ご苦労だったなあ。
【村  人】  今日はだいぶ、はがえった。旦那の顔も、ニコニコだったな。
     ――― 村人一同、笑い出す
【源右エ門】  皆の衆がよくやってくれる。わしは、それがうれしくてなあ。わしらの村は、土地が狭い。そして、その土地もやせていて、ろくな米もとれない。しかしのう、ここに堰を作って野川の水を引けば、この土地は、見事な土地に生まれ変わるだろうよ。のう、わしには、秋の真っ青な空に、黄金の稲穂が出そろうのが目に見えるようじゃ。

―――村人たち、観客(荒地)を見ながら、「ほんにのう、そのとおりじゃ」と言いながら、うなづきあう。

【源右エ門】  皆の衆、もう少しだ。宜しく頼むぞ。
【村  人】  ああ、もちろんだども。

【村  人】  ほんじゃ旦那様、今日は、ごめんくだせえ。
【源右エ門】  ああ、ゆっくり休んでおくれ。助三、今夜はかかあに、ゆっくり背中でも流してもらえや。
【村  人】  そうだ、助三。新婚だからって、あんまり疲れっこどすんなよ。
【村  人】  ほだほだ、お前、この頃、やしぇだんでねえが。

――― 一同、笑いながら帰っていく。一人残った源右エ門は、空を見上げて「きれいな夕焼けだ。」とつぶやく。そのとき、家の陰から、おせきが駆けてくる。