おせきの物語 ②

第 一 場

夕映えの中に、旅の僧のシルエットが浮かび上がる。路傍の石碑の前に立ち、長い祈りの後に、観客の方に向きながら、静かな口調で語りかける。

【旅の僧】 これから私がお話しますのは、今からおよそ四百年前のことでございます。当時、この地方一帯は、まだ荒れた原野でございました。人々の生活は貧しく、日々の暮らしもままならないありさまでございました。
      そんな時、西館部落に住んでおりました手塚源右エ門という方が発起人になり、堰を掘り、この土地を開墾したい、と立ち上がったのでございます。その当時私は、この手塚源右エ門殿に、学問の修養に来ておりました。村人の熱意にもかかわらず、工事は、こぶしが原というところで困難を極めたのでございます。
      そして、それを救ったのが、おせきという当時十九歳の娘でございました。私は、この石碑の前に立つときに、古里の将来にかけた人達の情熱を思わずにはいられません。そして、私たちに、今、生きている私達に、お前たちはこの古里をどうするんだ、と語りかけているような気がしてなりません。

     それでは、私の話を聞いてください。